エッセイ · 嗅覚アート
上田麻希(Maki Ueda)「Olfactoscape Ver. 1」(2010)。
Maki Ueda. Olfactoscape Ver. 1 (2010).
嗅覚の空間。幅3メートル。カーテンでできている。
「Olfactoscape」は、カーテンでつくられた直径3メートルの円形の空間。壁には、見えない匂いが塗られている。2010年、上田麻希はこの作品の最初のバージョンを大阪で制作した。制作は Inframince と Pantaloon。
囲われた空間の中を、訪れた人は歩き、嗅ぐ。檜、樟脳、スズラン、桜、野ばら、落ち葉の森、生姜、柚子、松茸、山百合、シナモン、草。それぞれの香りはカーテンの一箇所に留められている。離れていればかすか。近づけばはっきりと。
上田は問う。風景は鼻で見ることができるのか。その答えは文ではなく、歩いて通り抜ける空間である。どの位置にも、待っている香りがあり、消えていく香りがある。風景は見られない。風景は、歩く者の身体の内側で立ち上がる。
香りによって季節を刻む日本のやり方を、上田は具体的な種の名で示す。早春の桜。秋の金木犀。雨のあとの濡れた木、檜。香りは概念ではない。香りは物質であり、それ自身の場所にある。