Olfactory Memory · エピソード 04
Dreams.
現実ではない夢の香水。
01 · はじまり
展覧会は、夢の空間。
二十二の動詞。三十六の香り。夢の三つの時制のための、三つの調香テーブル。夢を見た、夢を見ている、夢を見たい。
アーティストは、夢がすることを書きとめた。抱きしめる。話す。聴く。わかる。送る。隠れる。動詞ひとつが、夢の働き方ひとつ。香りひとつが、ひとつの具体的な夢。
2024年12月、10日間の開催。Olfactory Memory 展覧会シリーズを締めくくるエピソード。
02 · コンセプト · 五角形
Penta は五角形。
辺と辺がつながっても、形は決して正確にならない。夢のように。眠っていた人は目覚め、夢を思い出せない。思い出せても、ぼんやりとした断片だけ。
展覧会はそれを描こうとする。特定の夢ではない。目覚めた瞬間に夢がほどけていく、そのありさまを。
03 · 動詞 · 二十二の動詞
夢がすること。
夢は抱きしめる。夢は話す。夢は聴く。夜ごと夢がしつづけることから、アーティストが書きとめた二十二の動詞。動詞ひとつが、短い詩ひとつ。
動詞 01
抱きしめる
静かな夢のなかで、私は自分を抱きしめる。魂のいちばん深い場所へ帰るように。そこでは時が止まる。あらゆる雑然としたものが溶けていく。静けさと落ち着きだけが残る。自分の鼓動が聞こえる。母の腕のなぐさめのように、やさしく。心配も恐れもゆっくりと薄れ、満ち足りて安らいでいる感覚に場所をゆずる。
動詞 02
話す
夢のなかで、私は夕日があなたのシルエットを抱く場所へ戻る。長く秘めてきた愛の言葉が、耳もとでささやく軽い風になる場所へ。決して褪せなかった想いに燃えながら、私は心のすべてであなたに話しかける。夢のなかでは、もうためらわない。目覚めると、問いが残る。現実の私にも、夢のなかと同じ勇気があるだろうか。
動詞 03
聴く
聴く
夢のなかで、私たちは呼び声を聞く。静まりかえった森を抜ける風のように立ちのぼり、やわらかく、それでいて忘れがたく、心のいちばん深いところに触れる。遠くて、懐かしい音。目覚めても、その言葉はまだ残り、静かに問いかけるようだ。あの夢の荒野で、私たちの名を呼んだのは誰だったのか。
動詞 04
わかる
夢のなかで、涙が黙って落ちる。まだ誰にもわかってもらえない心のように。呼び声には音がなく、魂を曇らせる孤独のこだまだけがある。私たちは悲しみのなかで自分自身に出会う。弱いから泣くのではなく、わかってくれる誰かを心が求めているから。
動詞 05
送る
夢のなかで、謝罪がそっと落ちる。夕暮れに触れる風のように軽い想いを乗せて。一日の慌ただしさのなかで言えなかった言葉が、夢に少しのやさしさを運んでほしいと願う。風がぎこちなさを連れ去り、謝罪は軽い雲になる。
動詞 06
隠れる
夢のなかで、私たちは日も月もない世界へ迷いこむ。一歩ごとに不確かさを抱えた世界。ぼやけた十字路が現れ、自分自身と向き合えと言うかのよう。遠くのランタンが、道を照らしながら、同時に私たちの勇気を試している。
動詞 07
Xoay
回る
夢のなかで、私たちは回る。終わりのない円。宙に浮かぶ、やわらかな空白。体の軸が扇風機の羽のように回る。流れていく生を感じるために回る。忘れるために回り、思い出すために回り、遠いものと近いものを夢に見る。
動詞 08
握る
夢のなかで、手がひとつの欠片を握る。薄れていく形。誰かなのか、それとも心がまだ見えない遠い場所からの残響にすぎないのか。溶けてしまうのを恐れながら、強く握る。一つの物か、あるいは憧れそのものか。生の流れのなかで探され、決して手放されない。
動詞 09
問う
夢のなかで、私たちは空白へさまよい込む。空について、大地について、理由について、問いが鳴り続け、答えるのは時の果てしない沈黙だけ。やわらかな残響が疑いに応え、やがて夢と目覚めのあいだで、どちらがどちらか分からなくなる。
動詞 10
思い出す
夢のなかで、私たちは見知らぬようで懐かしい場所へさまよい込む。記憶と現在が薄明かりのなかで織り合わさる。古い香りが通り過ぎ、かつて訪れた場所、心が名を呼び続ける場所を呼び起こす。何を探しているのか知らずに歩き、見つかるのは静かな落ち着きだけ。
動詞 11
立つ
夢のなかで、私は現実と空白のあいだに立ち尽くす。にじんだ光がぼんやりとした形を刻む。いくつもの顔が冷たい風のように過ぎ、聞き慣れない音を運ぶ。私の属さない世界からのささやきのように。
動詞 12
待つ
夢のなかで、がらんとした冷たいホームが色あせた絵のように現れる。そこで私は、名も時刻もない列車を待っている。半分は本当で、半分はそうでない希望に、心が重い。けれど、その列車は本当にあるのだろうか。
動詞 13
愛する
落ち着かない夢のなかで、私は一本の細い糸にすがる。現在と、確かでないすべてをつなぐかのように。手が震え、大切な何かを失うのが怖い。それは記憶か、夢か、まだ伝えていない愛の言葉か。その糸は、私自身なのだろうか。
動詞 14
願う
その夢のなかで、私は小さな手に触れる。やわらかく、それでいて力に満ち、空いっぱいの安らぎを抱えているかのよう。信頼に輝くその瞳が、黙っていたはずの感情を照らす。不思議なつながり。揺らめいて、そして確かなもの。
動詞 15
探す
幻の夢のなかで、私たちはまだはっきりしないもののあいだをさまよう。真実の扉の鍵を探すかのように。けれど鍵はもろく、闇のなかで砕けていく。秘密は風の花のよう。人生の鍵は、終わりのない迷路のなかでたやすくは見つからない。
動詞 16
見る
夢のなかで、私はまたあなたに会う。時の流れのなかの、やさしい記憶。あなたは霧のなかにかすかに現れ、過去の見慣れた瞳は人のぬくもりに満ちている。目覚めると、心に冷たさが残る。あなたは遠くへ行ってしまったと知りながら、記憶の光はまだどこか近くでかすかに光っている。
動詞 17
手放す
夢のなかで、私たちは枝からちぎれた一枚の葉。果てしない空間を自由に落ちていく。足は地につかず、背を預ける壁もない。漂い、迷うことに胸が高鳴る。手が何かをつかもうと伸びるが、私たちを受け止めるのは空っぽの空だけ。
動詞 18
慈しむ
夢のなかで、私は自分が手放すのを見る。ひとつの姿を後に残し、過ぎた日々を通り過ぎるそよ風のように流していく。かつて熱を帯びていた手は、天地の広がりのなかでゆるみ、もうしがみつかず、遠いものへ手を伸ばすこともない。手放すことは失うことではなく、歩き続けること。
動詞 19
Go
夢のなかで、私は扉の前に立つ。まばらな光が肩に触れる。錠が静かに、やさしい秘密を守っている。その向こうに隠された招きのように。私の足取りはゆっくりとやわらかく、少しも急がない。
動詞 20
泳ぐ
霞んだ夢のなかで、私は悲しみの水に沈む。冷たい深みでは、光は色あせた色味にすぎない。ひとかきごとに感情の領域を抜けていき、眠りについたと思っていた痛みに心が開かれる。
動詞 21
Bay
飛ぶ
夢のなかで、私たちは一羽の鳥になり、静かな水面をすべるように飛ぶ。波が穏やかで、心を奪う音色を響かせる。その音は、一度も離れたことのない場所からの呼び声のようにささやき、遠い感情を揺り起こす。
動詞 22
走る
見えない夢のなかで、私は走る。けれど脚は捕らわれたように持ち上がらない。うなる風が行く手をふさぎ、足もとのむき出しの地面は一歩ごとに呑み込もうとしている。胸をしぼる無力さ。
04 · ゾーン · 3つのブレンドテーブル
夢の3つの時制。
夢見ることの3つの時制。
旅の終わりに、3つのブレンドテーブルが時制で分かれる。夢見た、夢見ている、夢見たい。来場者は自分のいる時制を選び、思い出すための問いを読み、開かれたパレットから10ミリリットルのボトルを1本ブレンドする。
テーブル 01 · コード D955
夢見た
思い出すための問い
- 別れのない場所の夢。それはどんなところ?
- あの夏は、あなたのなかに何を残した?
- かつて好きだった子どもの頃の遊びを夢見る?
パレット · 8本
- D959 あなたを何度も夢に見た
- D971N 最後に会った時を夢に見た
- DIO82 遠いあの夏を夢に見た
- DINV 初めてあなたを見た瞬間を夢に見た
- DPC 子どもの頃の遊びを夢に見た
- D899 家のごはんを夢に見た
- D953 さよならのない場所を夢に見た
- DEXO いつもわかってくれる人を夢に見た
参加のしかた
問いにひとつ答える。開かれたパレットから香りを選ぶ。10ミリリットルのボトルを1本ブレンドする。持ち帰る。
テーブル 02 · コード D2922
夢見ている
思い出すための問い
- 恐怖の匂い。「FEAR 21」で、ノルウェーのアーティストであり匂いの研究者であるシセル・トラース(Sissel Tolaas)は、嗅覚アートのなかでも最も大胆で、最も議論を呼んだ作品のひとつを生み出した。
- 痛みのない場所を夢見る?
- 窓辺に座って、いつも何を考える?
パレット · 8本
- D33GL 痛みがもう残らない場所
- D6113 陽だまりの隠れ家
- DOPI 仮面のいらない場所
- D973 母のあたたかな抱擁
- D556 静けさのひととき
- DTOM おだやかな午後
- DEUS 静かな雨の日
- D000 窓辺に座って
参加のしかた
問いにひとつ答える。開かれたパレットから香りを選ぶ。10ミリリットルのボトルを1本ブレンドする。持ち帰る。
テーブル 03 · コード D1387
夢見たい
思い出すための問い
- いちばん欲しい超能力は?
- 理想のパートナーを夢見る?
- 笑い声だけの場所を夢見る?
- 恐れがなかったら、あなたの人生はどうなる?
- 孤独のない世界は、どんな姿?
パレット · 7本
- DSP スーパーヒーローになる夢を見たい
- D656 空を翔ける
- D947A 笑いだけに満ちた世界
- D499 おとぎ話の城
- DBLE 雲の上を歩く
- DNIO 終わらない雨
- D952 星に手が届く
参加のしかた
問いにひとつ答える。開かれたパレットから香りを選ぶ。10ミリリットルのボトルを1本ブレンドする。持ち帰る。
06 · 来場 · 展示情報
会期
2024年12月12日〜22日 · 10日間。
開館時間
月〜金:14:00〜19:00
土〜日:11:00〜19:00
会場
ホーチミン市。
入場
入場無料。16歳以上。
07 · ギャラリー · 展示のフレーム
展示からの6枚のフレーム。






08 · 残響
閉じた。終わってはいない。
展示は閉じた。夢は毎晩やってくる。来た人のなかに。間に合わなかった人のなかに。
アーティストの、夢についてのノートより。