エッセイ · 嗅覚アート
Josely Carvalho. Diary of Smells: Glass Ceiling (Teto de Vidro).
割れたガラスも、まだ匂いを抱くことができる。
撮影:João Caldas · Josely Carvalho(公式サイト)
匂いで書かれた日記
ジョゼリー・カルヴァーリョ(Josely Carvalho)は、1970年代からニューヨークに暮らすブラジルのアーティストである。その作品は個人の生活と、世界の政治的・社会的な激動、とりわけ女性の境遇にかかわるものから生まれる。
彼女は長年、「Diary of Images」というプロジェクトを続けてきた。「Diary of Smells」はそこから生まれた。一日を写真で記録する代わりに、記憶に残る匂いで記録する。
「Glass Ceiling」、ポルトガル語で「Teto de Vidro」は、そのプロジェクトの一章である。2018年3月3日から5月6日まで、サンパウロ大学現代美術館(MAC USP)で、ラウラ・アブレウ(Laura Abreu)のキュレーションにより展示された。
タイトルは二重に働く。ガラスの天井は、女性を阻む見えない限界を指すおなじみの言葉だ。ここではガラスは本物の素材でもある。手に持ち、割り、また作ることのできるもの。
割れたガラスから、吹きガラスの器へ
展覧会は四つの部分からなっていた。最初のホールは「Shards」。二つ目の部屋は「Resilience」。三つ目は「Smell Flasks and Olfactory Crayons」。そしてガラスの制作を追う映像「Memory of Glass」。
出発点は「Estilhaços」、つまり「Shards(破片)」と題されたブックオブジェクトで、割れたワイングラスをめぐる作家の記憶と文章から作られた。そのページから最初の六つの匂いが生まれた。Affection(愛情)、Illusion(幻想)、Persistence(持続)、Emptiness(空虚)、Pleasure(快楽)、Absence(不在)。
彫刻はニューヨーク・ブルックリンのガラス工房 UrbanGlass で作られた。割れた破片を集め、砂と火とふいごを使って、曖昧な形の器に吹いた。どれもなじみのある物には似ていない。グラスと破片のあいだのどこかにある。
カルヴァーリョは器の口を意図して開けたままにした。匂いはそれぞれのやり方で逃れ出て、訪れた人はそれぞれ自分の鼻でレジリエンスを読む。
十二の匂い、レジリエンスについてのひとつの問い
展覧会には全部で十二の匂いがあり、Givaudan do Brasil とともに作られた。六つは本「Shards」から。ほかの六つはガラスの器に宿っていた。Anoxia、Pepper Ball、Dust、Barricade、Lacrimae、Queen of the Night。
この六つは、世界各地の抗議の記憶の痕跡として作られた。Anoxia は酸素のない空気の息苦しさ。Barricade は破壊された森の焦げた匂い。Lacrimae は、警察が抗議を解散させるのに使う催涙ガスから、悲しみの涙までをたどる。Pepper Ball はペッパー弾を思い出させる。Dust は塵そのもの。六つはまとめて「Resilience」と呼ばれる。二つ目の部屋の名である。
Queen of the Night は、暗くなってから最も強く香る花をつけるヤコウボク(Cestrum nocturnum)の匂いだ。それを催涙ガスや森の煙の隣に置くのは、はっきりとした選択である。暴力の匂いのなかに、なお咲く生の匂いがひとつある。しかもそれは、最も見えにくいときに咲く。
2019年、この作品は Art and Olfaction Awards のサダキチ賞を、レアンドロ・プティ(Leandro Petit)と共同で受賞した。シセル・トラース(Sissel Tolaas)の恐怖の壁のように、「Glass Ceiling」は匂いが集団の感情を運べることを示す。違うのは、カルヴァーリョが傷のところで立ち止まらないことだ。彼女はもうひとつ問う。何かが割れたとき、私たちはその破片をどうするのか。