エッセイ · 嗅覚アート

ルイザ・ゴットシャルク「Glade: To Touch Painting」

Luiza Gottschalk. Glade: To Touch Painting.

触れたときだけひらく森。

ルイザ・ゴットシャルク「Glade: To Touch Painting」。絵具に香りを込めた森の絵が、ギャラリーに掛けられている

Olfactory Art Keller · Olfactory Art Keller



触れてよい六枚の絵

2022年の春、3月10日から、ニューヨークの Olfactory Art Keller は、ブラジルの画家ルイザ・ゴットシャルクの絵を六枚掛けた。六枚とも森の情景。六枚とも匂いがある。

香りはカンヴァスに吹きつけられてもいないし、部屋のディフューザーから流れてもいない。絵具のなかに棲んでいる。嗅ぐには、どの美術館も禁じることをしなければならない。絵に触れること。指が表面をこすると、香りが放たれる。

題がそのまま言っている。「Glade: To Touch Painting」。glade は森の空き地。To Touch Painting は誘いであり、絵を見ることのもうひとつの定義でもある。

森の四つの匂い

ゴットシャルクは専門家の助けを得て、四つの香りをつくった。名は天気のように素朴だ。湿った夜、乾いた森、柑橘、牧草地。

湿った夜は、みずみずしく湿っている。乾いた森は、踏まれた枯れ草を思わせる。柑橘は果実の香り。牧草地は温かく鮮やか。四つはどれも、実在の森を再現しようとはしない。むしろ散歩の四つの瞬間に近い。日が暮れた直後、日なたの草地を横切るとき、熟れた果実を割るとき、ひらけた場所へ踏み出すとき。

訪れた人は一枚から次の一枚へ移り、触れ、嗅ぎ、頭のなかでゆっくり森を組み直す。展覧会の文章は、触れられた絵がカンヴァスの外へあふれ、見る者を包み込むと述べる。

アトリエから国立美術館へ

六枚は、2021年、ゴットシャルクがニューヨークの International Studio & Curatorial Program に滞在していたあいだに描かれた。見る者が彼女の絵を感じ取る方法を広げるため、香りを研究していた時期だ。

「Glade」は、ニューヨークでの初個展だった。同じころ、ブラジリアでは、ブラジルの国立共和国美術館が彼女の別の展覧会を開いていた。題は「Clareira」。ポルトガル語で clareira もまた、森の空き地を意味する。

同じ名の二つの展覧会。何千キロも離れた二つの都市。ひとつは首都の大きな美術館。ひとつはマンハッタンのチャイナタウンにある小さなギャラリー。そこでは、訪れた人が手を伸ばすよう誘われた。

指が第三の目になるとき

西洋絵画は長く、目の芸術として教えられてきた。見る者は距離をとって立ち、見て、考える。ほかの感覚はすべて外で待つ。多くの美術館では、ロープや床に引かれた線がそれを思い出させる。

ゴットシャルクは絵画を壊さない。彼女の絵は、色も構図も、見るための森もある、れっきとした絵だ。ただ、もうひとつの入り口を加える。指が触れ、鼻が受け取り、目がもう一度、違うふうに見る。枯れ草の匂いが立ちのぼるのを嗅いだばかりの緑は、違って見える。

もうひとつ、小さなこと。触れるたびに交換が起きる。訪れた人は指先に少しの香りを持ち帰り、表面に少しのぬくもりと、かすかな指紋を残す。数週間後、これらの絵はもう初日とまったく同じではない。近づいたすべての人の跡を帯びている。ふつうの絵は無傷でいようとする。ゴットシャルクの絵は、見る者ひとりひとりに変えられることを受け入れる。

嗅覚アートには以前から、香りを隠した絵があった。たとえばペーター・デ・クペールの見えない絵。題の意味を嗅ぐには、表面をひっかかなければならなかった。ゴットシャルクはもっと穏やかだ。ひっかかない。触れるだけ。そして森がひらく。