エッセイ · 嗅覚アート
ジョサイア・ウェッジウッド・アンド・サンズ(Josiah Wedgwood and Sons)「Scent Bottle」
Josiah Wedgwood and Sons. Scent Bottle.
外には顔。内には消えた匂い。
© Victoria and Albert Museum, London; V&A Wedgwood Collection. Art Fund 寄贈(National Lottery Heritage Fund の多大な支援、個人の寄付、公募による) · Victoria and Albert Museum (V&A)
手のひらほどの物
瓶は高さ52 mm、幅43 mm、厚さ17 mm。丸く平たく、懐中時計ほどの大きさ。イングランド、スタッフォードシャーのエトルリア工場で、ジョサイア・ウェッジウッド・アンド・サンズがつくった。ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館は、これを1785年から1790年ごろのものとしている。
素材はジャスパーウェア。高温で焼いた炻器である。瓶は青く、ラベルはそれを「solid blue jasper」と呼ぶ。色は表面にのっているのではなく、土そのものに通っている。その青い地の上に、別につくって貼りつけた白い浮き彫りがのる。
片面には横顔のジョージ3世。もう片面には、同じく横顔のシャーロット王妃。瓶の厚みを挟んで、背中合わせに置かれた二つの顔。
V&A はこの型の瓶を二つ所蔵している。ひとつは肖像を月桂樹の縁飾りで、もうひとつは古典的な縁飾りで囲む。どちらも V&A Wedgwood Collection に属し、バーラストンの World of Wedgwood で展示されている。
試行で見出された素材
ジャスパーウェアは、1770年代にジョサイア・ウェッジウッド自身が発明したもの。V&A によれば、完成までに数年をかけ、何千もの試験を重ねた。できあがった素材は色をつけ、切り、磨くことができ、さまざまな物に役立った。花瓶、メダリオン、ボタン、そしてこのような小さな瓶。
この技法は、とても明瞭な像を生む。地は平らでつやがない。白い浮き彫りはその上に、封印のようにくっきりとのる。縁をぼかす光沢の釉はない。青い地の上の横顔は、物が指先よりわずかに大きいだけでも、はっきりと読める。
だからジャスパーウェアは肖像に向いていた。横顔の頭部は、硬貨やメダルでおなじみの形式だった。当時の人々は、そうした顔が誰かをひと目で知り、それが大切にとっておくべきものだと知っていた。
ウェッジウッドにはすでに王室とのつながりがあった。1760年代から、この会社のクリーム色の陶器は、シャーロット王妃にちなんで Queen's Ware として売られていた。ジャスパーの瓶に刻まれた彼女の肖像はその関係の続き。今回は、手の届く人なら誰でも買える小さな物として。
匂いを運ぶための肖像
香水瓶は私的な物である。ポケットに、財布に、化粧台の上に住む。ひとりで、あるいは誰かのごく近くで開けられる。そうした物に王と王妃を置くことは、もっとも公的な像をもっとも私的な空間へ持ち込むこと。
この瓶を持ち歩いた人は、二つのものを運んでいた。ひとつは匂い。自分のもので、気の向くままに替えられる。もうひとつは国じゅうが知る像。匂いは蒸発し、詰め直さなければならなかった。顔は焼いた土のなかに定まったままだった。
博物館の記録は、瓶に何が入っていたかを語らない。香りのある水かもしれないし、別のものかもしれない。誰も書き残さず、このエッセイも推測しない。確かなのは、匂いを入れるためにつくられたこと、そしてその匂いがもうないこと。
だからいま、ケースの前の来館者にできるのは見ることだけ。青い地、二つの顔、月桂樹の冠。嗅ぐものは何もない。鼻のためにつくられた物が、いまは目にだけ語りかける。
この瓶が記憶に値するのは、香りが別の意味の層に包まれていたことを示すから。新しい素材、権力の像、ある十年の流行。殻は二百年以上もった。芯は、最後に栓が抜かれるまでしかもたなかった。部屋全体に香りを満たしたウェッジウッドの物については、パスティーユ・バーナー「Dolphin Tripod」を。