エッセイ · 嗅覚アート

日本「源氏物語五冊形香箱」。

Japan. Incense Box in the Shape of Five Volumes of The Tale of Genji.

読むための本ではない。開き、香りを聞くための本。

唐獅子、牡丹、宝尽くしの錦の帙に包まれ、「源氏物語」と題された、重ねた五冊の『源氏物語』の形をした漆の香箱

The Metropolitan Museum of Art、Mrs. George A. Crocker (Elizabeth Masten) 寄贈、1937(Open Access、パブリックドメイン) · The Metropolitan Museum of Art



漆の五冊

ニューヨークのメトロポリタン美術館(The Metropolitan Museum of Art)は、小さな香箱を所蔵している。長さ11 cm強、幅約8 cm、高さ4 cm弱。19世紀後半、明治時代の日本で作られ、1938年に George A. Crocker 夫人の寄贈で美術館に入った。

一見、箱には見えない。錦の帙に収められ、重ねられた五冊の本に見える。かつて糸で綴じた薄い冊子を納めるのに使われた帙である。帙には日本語で題が記されている。『源氏物語』。

その錦は布ではない。漆である。美術館によれば、文様は唐獅子の丸文、牡丹、散らされた吉祥の宝尽くし。

この偽りの錦をつくるため、職人はいくつもの技法を同時に用いた。形を盛り上げる高蒔絵、平らに描く平蒔絵、文様を塗り込めてから研ぎ出す研出蒔絵、金銀の切金、そして朱と緑の漆。小さな面が、ひとつの技法の目録を担っている。

内側:御簾と薬玉

箱の中には香盆がある。これにも装飾がある。巻き上げた御簾と、そこに下がる薬玉。薬玉は、日本人が魔除けとして吊るした花の玉である。

どちらの細部も偶然ではない。御簾は、『源氏物語』が展開する平安時代の宮廷の世界に属する。貴族の女性は御簾の奥に座った。訪れる者には影しか見えず、声しか聞こえず、しばしば衣に焚きしめた香だけが届いた。巻き上げられた御簾は、姿を見られる瞬間である。

薬玉は文字どおり香りと結びついている。その名には「薬」という字が含まれ、伝統的にこうした玉には香料や薬草が詰められた。香盆に薬玉を置くことは、香るものの中に香るものを置くことになる。

箱を開ける者は三つの層に出会う。外に本の帙、内に宮廷の情景、そして最後に、盆に休む香木。

『源氏物語』と源氏香

『源氏物語』は11世紀初め、後の読者に紫式部として知られる平安宮廷の女性によって書かれた。全五十四帖。香りはいたるところにある。香を焚きしめた衣、匂いで見分けられる人、薫物合わせ。

数世紀後、香をたしなむ人々はこの物語をもとにひとつの遊びをつくった。源氏香である。五包みの香が順に温められる。同じものもあれば、違うものもある。聞き手は、どの包みが同じかを縦線をつないで示す。

五包みからは、ちょうど五十二通りの組み合わせが生まれる。そのひとつひとつが、最初と最後を除いた巻に割り当てられた。こうしてすべての答えに文学の名がある。香りの組み合わせを正しく当てることは、巻の名を言い当てることになる。

やがて源氏香の図は遊びを離れ、織物や陶磁器、漆器に現れるようになった。文学にも香りにも属する、独自の文字になった。

本が香りの殻になるとき

本の形をした香箱は、日本の美術では珍しくない。だがこの形は、目新しさ以上のことを語る。香をたしなむ人々にとって、『源氏物語』と香木は同じ世界に属していたということを。

この箱が作られた明治時代、日本は急速に開かれ、変わりつつあった。こうした漆器の多くは過去を振り返っていた。平安の宮廷へ、前の世紀の香の遊びへ。変わりゆく文化を、それが変わるあいだ、つなぎとめていた。

メトロポリタン美術館には、同じく Crocker 夫人の寄贈による二枚の貝の形をした香箱もあり、物語の第四十二帖の情景が描かれている。一方は本の形を借り、もう一方は本の中の場面を借りる。