エッセイ · 嗅覚アート
パメラ・ローゼンクランツ「Attraction (Red and Blue)」
Pamela Rosenkranz. Attraction (Red and Blue).
匂いが私たちの代わりに選んでしまうことがある。
Art in America · Art in America
赤、青、透明なプラスチック
2014年の夏、6月14日から7月26日まで、チューリッヒのカルマ・インターナショナル(Karma International)でパメラ・ローゼンクランツの展覧会「My Sexuality」が開かれた。その中心に「Attraction (Red and Blue)」という作品があった。
ギャラリーの壁は床から天井まで、薄い透明なプラスチックシートで覆われていた。つや消しのアルミニウムのパネル11枚が壁に立てかけられていた。通りに面した大きなショーウィンドウから日の光が入った。床には6台のプロジェクター。3台が赤い光を、3台が青い光を投げていた。
プロジェクターは像を映さなかった。色だけだ。赤と青がプラスチックに、アルミニウムに、来館者に降りかかり、外からの日の光と競い合った。
熱が匂いを運ぶ
作品の最も重要な部分は目に見えなかった。プロジェクターのファンの熱が、合成フェロモンを部屋に送り出していた。ある記述によれば、それはジャコウネコの匂いをまねたフェロモンだという。その香腺は、非常に長いあいだ香水に使われてきた。
プロジェクターは像のための道具だ。ここでは匂いのための道具になった。光は来館者が見たもの。匂いは来館者に働きかけたもの。どちらも同じ温かな空気の流れにのって運ばれた。
来館者には前もって知らされなかった。赤と青のなかを歩き、パネルを見て、去った。いま何を吸いこんだのか、知ることはなかったかもしれない。
匂いを使う作品の多くでは、匂いこそが来館者に気づくよう促されるものだ。「Attraction」では、匂いは背景で働く。名前も、称賛も、不満も要らない。ただ空気のなかに、十分長く、十分近くにあればいい。その沈黙が、どんな強い臭いよりもこの作品を不穏にしている。
ネズミと狩る者の匂い
作品はトキソプラズマ・ゴンディ(Toxoplasma gondii)という寄生虫を指し示す。それはネコの体内で繁殖する。齧歯類に感染すると、ネコの匂いに対する生まれつきの恐れを失うことが、科学者によって観察されている。むしろ引き寄せられさえする。ネズミは捕食者に近づき、寄生虫の生活環が閉じる。
欲望が別の生物によって内側から操られる、まれな例だ。ネズミは引き寄せられることを選ばない。ほかの何かが代わりに選ぶ。
ローゼンクランツはその問いを人間へ向ける。ある匂いを心地よいと感じ、ある色に惹かれ、ある体を魅力的だと思うとき、そのうちどれだけを私たちは選んでいるのか。どれだけを、生物学が、化学が、広告が、前もって選んでいるのか。
Penta は赤と青を、広告と標識の色として読む。目をある方向へ引くためにデザインされた色だ。ローゼンクランツはそれを、鼻をある方向へ引くためにデザインされた分子のそばに置く。目も鼻も、どちらも導かれている。
素材としての体
パメラ・ローゼンクランツは1979年スイス生まれ、チューリッヒを拠点に制作する。その作品はしばしば、体に近い素材をくぐる。肌の色、液体、ケア用品、匂い。人間はどこで終わり、物質はどこで始まるのかを問う。その答えは、たいてい私たちが思うほど明確ではない。
展覧会のタイトル「My Sexuality」は親密に響く。だが中にあったのは冷たいものだった。プラスチック、アルミニウム、プロジェクター、合成の分子。「Attraction」は、ひとつの機構のように、部品ごとに分解されていた。
1年後、ローゼンクランツはヴェネツィア・ビエンナーレでスイス代表となり、人の肌の色をした液体のプール「Our Product」を見せた。「Attraction」はその作品の前にあった、より小さく、より静かな作品だ。長く見つめられる必要はない。来館者が息をすれば、それでいい。