エッセイ · 嗅覚アート

パメラ・ローゼンクランツ「Infection (Calvin Klein Obsession for Men)」

Pamela Rosenkranz. Infection (Calvin Klein Obsession for Men).

誘う匂いは、罠になりうる。

パメラ・ローゼンクランツ「Infection (Calvin Klein Obsession for Men)」。頂が緑に光る円錐形の堆肥の山

「Sun Rise | Sun Set」展示風景、Schinkel Pavillon。© Schinkel Pavillon and the artists、撮影:Andrea Rossetti · ArtReview



屋内の小さな山

2021年、ベルリンのシンケル・パヴィリオン(Schinkel Pavillon)。ガラスとコンクリートのあいだに、円錐形の土の山が立っていた。数立方メートルを占め、来館者がまわりを歩かなければならないほど大きい。頂は集中した色光を受けて緑に光っていた。

山は庭の土ではなかった。豊かで原初的な堆肥。炭、人の糞、動物の骨。肥えた土の最も生々しい材料であり、足もとに隠れたまま、ギャラリーに持ちこまれることのないたぐいのものだ。

そしてそれは香水に浸されていた。作品のためにつくられた香りではない。大量生産の製品、カルバン・クライン Obsession for Men。作品の正式なタイトルは、成分表示のように、それを括弧のなかに記している。

部屋に入った人は、二つのものを同時に嗅いだ。重く湿った土。そして多くの人がかつて誰かの襟もとで嗅いだかもしれない、男性用の香水。

なぜ Obsession なのか

瓶の選択は意図的だ。Obsession for Men には、ネコ科のフェロモンのように働く合成成分が含まれている。野生動物の研究者は、まさにこの香りを使って、森の大型ネコ科動物を自動撮影カメラへおびき寄せてきた。男性が他人を惹きつけるために売られるものが、捕食者まで惹きつけてしまう。

ここから作品は、スイスのアーティスト、パメラ・ローゼンクランツの長年の関心につながる。トキソプラズマ、ネコが人間にうつす寄生虫だ。生活環の一部をネコのなかで過ごし、目立った兆候なしに人の体に住みつくことができる。ほかの生物がひっそりと私たちの内側に生きている例だ。

ネコ科フェロモンの匂いを糞と土の山にのせることで、ローゼンクランツは断片をつなぐ。ネコ、寄生虫、土、人の体、そして瓶に詰められた欲望。タイトルは「Infection」。最初に広がるのは匂いだ。帰っていく来館者の服に、それはまとわりつく。

ローゼンクランツは長く消費産業の素材を扱ってきた。肌の色と工業用の化学物質がギャラリーに入りこんだ「Our Product」のように。「Infection」はその方向を続けながら、さらに深く、土まで降りていく。

日の出、日の入り

「Infection」は、2021年2月下旬から7月下旬までシンケル・パヴィリオンで開かれたグループ展「Sun Rise | Sun Set」の一部だった。世代を超えた19人のアーティストが集められ、マックス・エルンスト、カール・ブロスフェルト、エマ・クンツ、ジャン・パンルヴェ、ピエール・ユイグ、ネリ・オックスマン、坂本龍一らが並んだ。

共通のテーマは、人類と自然界との難しい関係だった。惑星の危うさの感覚、驚異、止めることのできない循環。ブロスフェルトの植物写真とパンルヴェの科学映画のあいだで、ローゼンクランツの山は、いちばん地面に近いものだった。

堆肥は小さな循環だ。死んだものは分解されて土になり、土は生きるものを養う。ローゼンクランツはその循環に市場の製品を加える。まるで問うように。デザインされ、瓶に詰められた人間の欲望は、循環の外にあるのか。それとも、寄生虫のように、ネコのように、もうひとつの環にすぎないのか。

作品は答えない。静かに緑に光り、匂いを放つ。来館者は山の前に立ち、引き寄せられながら、一歩下がりたくなる。そのためらいこそ、作品が来館者に自分のなかで気づくよう求めているものだ。