エッセイ · 嗅覚アート

アレックス・ダ・コルテ(Alex Da Corte)。「A Season in He'll」。

Alex Da Corte. A Season in He'll.

空気さえも小道具になるとき。

アレックス・ダ・コルテ「A Season in He'll」:Art + Practice(ロサンゼルス)での、バラのステンドグラスの窓、チェーンリンクのカーテン、模様の床によるインスタレーション

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美術館を離れたひと季節

2016年の夏、7月9日から9月17日まで、ロサンゼルスのハマー美術館は、アレックス・ダ・コルテを自館の建物の中では見せなかった。展示をレイマート・パーク、レイマート・ブールバード4339番地の空間 Art + Practice へ持ち出した。キュレーターは、当時ハマーのアシスタント・キュレーターだったジャミラ・ジェームズ。

ダ・コルテは1980年、ニュージャージー州カムデン生まれ。幼少期の一部をベネズエラで過ごし、フィラデルフィアを拠点に暮らし、制作している。映像、インスタレーション、彫刻を手がけ、1ドルショップの安い品物をしばしば絵具や小道具として使う。

タイトルは、アルチュール・ランボーが1873年に書いた散文詩「Une saison en enfer」(地獄の季節)から借りている。ダ・コルテは Hell を He'll に変える。アポストロフィひとつで、地獄を意味する語が約束になる。he will(彼はそうするだろう)。

舞台とその匂い

Art + Practice は舞台になった。ディズニーの「美女と野獣」のバラをあしらったステンドグラスの窓があった。チェーンリンクのカーテンがあった。大きすぎる魔女の帽子があった。床は目の錯覚を生む装飾模様で覆われ、その上を歩く人は足もとの面を確かに感じられなかった。

そして、部屋の匂いを変える香りのディフューザーがあった。ハマーはこれを、ガラスやチェーンリンクと同列に、インスタレーションの一部として挙げている。ここで匂いは副作用ではない。素材のひとつの層である。

部屋がふだんどんな匂いをしているか考えてみる。床板、ほこり、通り過ぎる人々、建物そのもの。それらの匂いは部屋の生の痕跡である。ディフューザーは、そのすべての上に別の層を重ねる。来場者はもう本物の部屋を嗅がない。アーティストが信じさせたい部屋を嗅ぐ。チェーンリンクや魔女の帽子のように、匂いは外から持ち込まれ、その場所に置かれる。

「A Season in He'll」の源は、ディズニーの「ファンタジア」や「美女と野獣」から、ダリオ・アルジェントやランベルト・バーヴァのホラー映画にまで及ぶ。飽和した色と抑えこまれた感情を共有する二つの世界。一方は甘く、一方は不吉。レイマート・パークで、二つはひとつの部屋を分け合う。

会場には古い家族写真が散らばり、文脈から切り離されて展示されていた。それらは空間を、見慣れていながら見知らぬものにした。知らない誰かの家のように。

短編映像

その舞台の中で、来場者は映像を見た。ハマーは6本の作品を挙げている。2012年の「A Season in Hell」「Bad Blood」「The Impossible」、そして2014年の「A Night in Hell, Part II」「Easternsports」「The Old Fart」。「Bad Blood」はランボーの詩の一章の題(悪い血)でもある。

インスタレーションと映像は互いを映し合う。画面に現れるもの、色、物、演出された雰囲気が、見る者のまわりにも現れる。映像と部屋の境界がぼやける。それを最もぼやかすのは匂いだ。画面には匂いがない。部屋にはある。

ほかの嗅覚作品、たとえばパメラ・ローゼンクランツの「Our Product」でも、匂いは人工の素材に添えるために製造される。ダ・コルテは匂いを舞台美術家のように使う。観客にその場面を信じさせるために。

「A Season in He'll」が心に残るのは、部屋の空気が決して中立ではないことを思い出させるからだ。誰かがそれを選んだか、そのままにしておいた。ダ・コルテは選び、選んだことを来場者に知らせた。