エッセイ · 嗅覚アート

アリサ・バンクス。「History of a People」。

Alisa Banks. History of a People.

瓶の一つひとつが、鼻で読むページ。

アリサ・バンクス「History of a People」。六つのガラス瓶が現れるように開かれたオブジェの本。香り、木、布、髪、貝

© Alisa Banks · Alisa Banks(公式サイト)



開くと六つの瓶になる本

「History of a People」はアーティストブック。けれど、めくるページはない。閉じると高さ約半メートル。木、布、その他の素材でできている。アコーディオンのように開くと、低く広がり、縦横それぞれ半メートル近くになり、六つのガラス瓶が現れる。瓶がページである。

瓶はそれぞれ固有の香りを収める。それぞれの香りが、アフリカ系アメリカ人の歴史の一つの時代を表す。名前は短い。Roots(根)。Journey(旅)。Arrival(到着)。Harrow(苦難)。Protest(抗議)。Visioning(未来を見る)。

順に読むと、名前は方向のある物語を描く。古い故郷から、強いられた航路を経て、苦しみの年月を経て、声へ、そして未来へ。本は細部を語らない。六つの目印を置き、あとは香りに任せる。

素材の一覧は長い。木、布、人の髪、ビーズ、貝、綿、インク、黒鉛、紙、絵具、ガラス、糸。そして香り。ほかと対等に並べられている。

意味を帯びた素材としての香り

バンクスは自身のサイトで、この作品の香りを「charged material」、意味を帯びた素材と説明している。大切な立場である。香りは作品を心地よくするために使われていない。木や布と同じように使われる。重さと、それ自身の歴史を持つ素材として。

隣に並ぶ素材も、無作為に選ばれてはいない。綿は、奴隷にされたアフリカの人々が働かされたアメリカ南部の畑を思い起こさせる。貝は、西アフリカの広い地域で通貨であり装飾だった。髪は体でありアイデンティティ。裁かれ、同時に慈しまれてきたもの。一つひとつの物が、すでに歴史の一ページである。

Deluxe 版もある。円筒形で、閉じると直径約20センチ、高さ25センチ近く。いくつかの素材が入れ替わる。毛糸、藍。藍もまた、プランテーションの労働と結びついた、固有の歴史を持つ植物である。

どちらの版も、一つの決まりを守る。歴史は文章では語られない。物の中に、そして瓶を開けたときに放たれる空気の中にある。

鼻で読む

本はふつう、読み手に文字を知ることを求める。「History of a People」は別のものを求める。遅さ。見る人は瓶を一つずつ開け、近づけ、待たなければならない。香りは、ページの言葉のように一度には届かない。少しずつ来て、受け取り方は人によって違う。

それが歴史を近くに引き寄せる。教科書で一世紀について読むのは、離れて立つこと。その世紀を表すために作られた香りを嗅ぐのは、たとえ一息でも、それを体に入れること。

バンクスは、それぞれの瓶の中身を明かさない。その沈黙に意味がある。見る人は答えを渡されない。問わなければならない。旅はどんな匂いか。抗議はどんな匂いか。未来はどんな匂いか。

この作品は、香りを用いた実験的作品に贈られる2024年 Sadakichi Award の最終候補になった。匂いを植民地と労働の歴史の中に置くほかの作品、たとえばオトボン・ンカンガ(Otobong Nkanga)のAmnesisと並ぶ。けれど「History of a People」は、より小さく、より私的。テーブルの上の一冊の本、六つの瓶、そして読む一人。