エッセイ · 嗅覚アート

アーニャ・ガラッチオ「Falling from grace」

Anya Gallaccio. Falling from grace.

匂いは毎週変わる。そうして作品は時を刻む。

アーニャ・ガラッチオ「Falling from grace」。ひもに通された何千ものガラ種のリンゴが、天井から吊り下がっている。

© Anya Gallaccio、撮影:Jo Underhill、作家提供 · Hyperallergic



2,700個のリンゴ

「Falling from grace」の素材リストはとても短い。2,700個のガラ種のリンゴと、ホップ用の麻ひも。リンゴは一つずつひもに通され、その束が天井から密に吊り下がり、部屋の中央に浮かぶひとつの塊をなす。

アーニャ・ガラッチオ(Anya Gallaccio)は2000年にこの作品を初めて制作した。2024年、イングランドのマーゲイトにあるターナー・コンテンポラリーで、個展「preserve」のために再制作した。キュレーターはメリッサ・ブランチフラワー、会期は2025年1月下旬まで。

Hyperallergic によれば、部屋ははじめ心地よい秋の匂い、シードルのような甘さに満ちていた。けれどリンゴは生の果物で、作品はそれを新鮮に保つための何もしない。数週間のうちに匂いは発酵へ、そして腐敗へと変わっていく。皮は黒ずみ、しわが寄る。

展覧会が終わっても、リンゴは捨てられない。近くに植えられることになっている。その小さな事実が、作品の読み方を変える。部屋のなかの腐敗は終点ではない。果樹園に始まり土へ還る道の、中ほどの区間だ。訪れる人は数週間、その一区間に立ち、その区間を嗅ぐ。

無常についての展覧会

「preserve」のなかで、「Falling from grace」はひとりではなかった。まわりには同じ論理に立つガラッチオの別の作品があった。生きた素材をギャラリーに持ち込み、変わるにまかせる。

「preserve 'beauty'」は1991年に初めて制作された。7枚のガラスのあいだに挟んだ1,700本のガーベラから成る。開幕後まもなく、花はしおれ、カビが生えた。2008年に初めて制作された「The inner space within」は、樹齢100年を超えるトネリコの木。トネリコ枯死病で枯れかけたそれを切り分けて室内に運び込み、ワイヤーとボルトで組み直した。1994年の「La Dolce Vita」は、アルミホイルの上に置かれたろうそくの一群。毎日取り替えられ、火を灯し直され、その蝋が広がってむらのある地面になる。

展覧会には、Hyperallergic が要約したひとつの考えが通っていた。腐敗はエネルギーに満ちている。単なる終わりではなく、終わりのない生の循環の一部だ。

題名には二つの層がある。Falling from grace は道徳的な転落を表す慣用句で、エデンの園のリンゴを呼び起こす。けれど文字どおりに受け取れば、ひもに通されたリンゴ一つひとつに起こることでもある。最良の状態から、一日ずつ離れていく。

時計としての匂い

美術館の作品の多くは、毎日同じに見えるよう保存される。ガラッチオの作品はその逆だ。最初の週に訪れた人と最後の週に訪れた人は、同じ作品を見ていない。二つの異なる作品を嗅いでいる。

ここでは匂いが時間の仕事をする。数日のうちにリンゴが熟れすぎたことに、目は気づかないかもしれない。鼻はすぐに知る。シードルの匂いは、酵母が動き出したしるし。鋭い酸っぱさは、さらに先へ進んだしるし。訪れる人に日付入りのラベルはいらない。日付を嗅ぎ取れるのだから。

そのため作品は、展示というより日々の暮らしに近い。台所に果物の袋を置き忘れたことのある人なら、その順番を知っている。甘い、甘すぎる、酸っぱい、傷んだ。ガラッチオはそれを2,700倍にして、明るい部屋に吊るしただけだ。

「Falling from grace」が心に残るのは、腐敗を失敗として扱わないからだ。美術館はふつう時間と闘う。この作品は時間を勝たせ、残ったものを土へ還す。そこでまた次の巡りが始まる。