エッセイ · 嗅覚アート

タヴァレス・ストラチャン「The Barber Shop」

Tavares Strachan. The Barber Shop.

匂いが先に届き、部屋はそのあと。

タヴァレス・ストラッチャン「The Barber Shop」。展示室に並ぶ理髪椅子、背の高い鏡、ブロンズの胸像、植毛による髪の絵画


美術館のなかの理髪店

「The Barber Shop」は、タヴァレス・ストラッチャンが2025年に制作したインスタレーション。部屋には理髪椅子、背の高い鏡、テレビがある。壁には植毛による絵画のシリーズ「Mind Field」が掛かり、4C と呼ばれる強く巻いた髪を描いている。その横には、手の込んだ髪型のブロンズ胸像のシリーズ「A Map of the Crown」が立つ。

テレビには、ストラッチャンの別の作品「UNIA Tea Room」のチェスセットで指される対局が映る。樹脂の駒には、マーカス・ガーベイをはじめとする黒人思想家の姿と名前が刻まれている。

けれど、そのすべてより先に匂いがある。チェノア・ベイカーが The Brooklyn Rail に書いているように、オイルシーンの清潔なバニラの香り、黒人のヘアケアでなじみ深い艶出しスプレーの匂いが、入る前の訪問者に届く。目が理髪店だと認める前に、匂いが身体の記憶を揺り起こす。

こういう椅子に座ったことのある人は、すぐにわかる。座ったことのない人は、独自の決まりと独自の匂いを持ち、長くそこにいる人々のいる場所に入っていくのだと知る。

アーカイブとしての理髪店

多くの黒人コミュニティで、理髪店は髪を切るためだけの場所ではない。物語、議論、知らせ、教えの場所だ。人は髪を切りに来て、話を聞くために残る。ここでの知識は本のなかにはなく、毎週繰り返される会話のなかにある。

ストラッチャンは「The Barber Shop」を語りの場所としてつくる。胸像と髪の絵画を並べることで、髪の技を、手入れと共同体をめぐる像の世界全体に結びつける。画面のチェスの対局は、思想家たちの名前を店の日常の空気へと運び込む。

際立っているのは匂いの使い方だ。匂いは部屋を説明しない。部屋より先に届く。思い出すことそのものをアーカイブに変える。保存されるのは紙ではなく、なじみの匂いに再び出会ったときの身体の反射だ。

美術館には、この種のアーカイブのための場所はめったにない。美術館は物を保存する。「The Barber Shop」は物と人のあいだにあるものを保存する。ある場所の空気を。

もうひとつの百科事典

「The Barber Shop」は、ストラッチャン初の大規模な美術館展「The Day Tomorrow Began」の一部。オハイオ州コロンバスの Columbus Museum of Art at The Pizzuti で、2026年5月16日から2027年1月3日まで開かれる。LACMA との共同企画で、約十年にわたる彫刻、絵画、ネオンの文字、音楽を集める。

ストラッチャンはバハマ出身のアーティスト。長年ひとつの大きな問いに取り組んできた。公式の歴史が取りこぼす人々と知識。2018年の「The Encyclopedia of Invisibility」は、まさにそれらの百科事典だ。

コロンバスの展示は、もうひとつの百科事典として展開する。どの部屋も、歴史を、科学を、哲学を誰が書くのかと問う。ある部屋には、ひとりでに鳴るウガンダのアマディンダ。別の部屋には、マーカス・ガーベイの頭部を戴いた陶の彫刻。そして、理髪店がある。

百科事典のなかで、「The Barber Shop」は最初に鼻で読まれる唯一の項目だ。身体の手入れの素材で自己を語る他の作品の近くに位置する。たとえばジャニーン・アントーニの「Lick and Lather」の、石鹸とチョコレートの胸像。どちらでも頭部がもう一度型取られ、手入れの匂いがそれに伴う。