エッセイ · 嗅覚アート
クララ・ウルシッティ「Invader」
Clara Ursitti. Invader.
場所を持たず、到着の時刻だけを持つ作品。
© Clara Ursitti · Clara Ursitti(作家公式サイト)
12人の作家、ひとつの空気
2014年、スコットランドは「GENERATION: 25 Years of Contemporary Art in Scotland」を開催した。四半世紀の現代アートを振り返る、国内各地の展覧会プログラムだ。そのなかで Glasgow Sculpture Studios は、7月4日から9月6日まで、グループ展「Mood is Made, Temperature is Taken」を開いた。
キュレーターは作家で編集者のクイン・ラティマー。Glasgow Sculpture Studios にスタジオを持つ12人の作家を集めた。彫刻の実践はそれぞれまったく異なる。映像、版画、物、香り。題名が示すとおり、温度を上げ、ムードをつくることが彼女の狙いだった。
クララ・ウルシッティはその12人の一人だった。新たに委嘱された作品は「Invader」。形はない。決まった間隔でギャラリーに現れるようプログラムされた、一組の香りだった。
ウルシッティは1990年代初めから匂いを扱ってきた。スコットランドで最も長く香りを主な素材としてきた作家の一人で、匂いの社会的・心理的な生のありようを見つめるインスタレーションや介入を手がけている。
時刻表どおりに演じる作品
展覧会の作品の多くには、場所がある。壁の絵。台座の上の物。訪れた人は作品まで歩き、立ち止まり、先へ進む。
「Invader」には場所がない。時刻表がある。決まった時刻に香りが放たれ、部屋に広がり、消えていく。作家自身のページは、ギャラリーで演じる時限式の香りと説明している。演じるという言葉が大切だ。匂いは演者のようにふるまう。舞台に上がり、そして去る。
だから、すべての人が同じように「Invader」に出会うわけではない。香りが放たれた瞬間に着いた人は、濃い雲の中に立つ。遅れて来た人は、残ったものだけをとらえる。二回の放出のあいだに来た人は何も気づかず、作品を見逃したと知らないまま去るかもしれない。
批評家スザンナ・トンプソンは ArtReview に、「Invader」が決まった間隔でギャラリーに染み出し、ゆっくりとくすぶり、方向感覚を失わせ、落ち着かなくさせると書いた。
ほかの作品への侵入
題名は、作品のすることをはっきり告げている。グループ展では、ふつう作家ごとに空間の持ち分がある。境界は引かれていないが、誰もが尊重する。ひとつの作品が隣を押しつぶしてはならない。
匂いはそうした境界を知らない。「Invader」が放たれると、ほかの11人の作家の映像、版画、物の上を通り過ぎる。訪れた人は誰か別の作家の作品の前に立ちながら、ウルシッティの作品を嗅ぐ。誰もそう配置していないのに、二つの作品が同じ瞬間に重なる。
それは、空間は誰のものかという問いを投げかける。部屋の空気を決めるのは誰か。日常でこの問いは絶えず起こる。隣から流れる煙草の煙、バスで隣に座る人の香水、近所の料理。私たちは選ばない。それでも届く。
つくられるムード
ラティマーの題名は「Invader」によく合う。ムードはつくられ、温度は測られる。どちらも空気に属し、目に見えない。それでいて、部屋がどう感じられるかを決める。
「Invader」はその考えを最もはっきり示す。部屋に物をひとつも加えない。部屋そのもののムードを変える。壁、台座、映像のスクリーン。なじみのない匂いの中で見ると、違う感情を呼び起こす。
この作品はまた、ウルシッティの実践の長い糸を引き継いでいる。匂いで落ち着かなくさせること。二十年近く前の「The Smell of Fear」では、香りの噴霧器はスピーカーに偽装されていた。「Invader」では、匂いに偽装はいらない。時間どおりに着きさえすればいい。そして部屋のすべてが、道を空けなければならない。