エッセイ · 嗅覚アート
クリスティアン・マリアンチュク(Cristian Marianciuc)「Olfactory Peregrinations」
Cristian Marianciuc. Olfactory Peregrinations.
一羽の紙の鶴が、一度の嗅ぐ行為を抱える。
Institute for Art and Olfaction · Institute for Art and Olfaction
鶴をつくる人
クリスティアン・マリアンチュクはルーマニア出身の紙の作家である。2014年から、彼の仕事はただ一つの形をめぐっている。日本の折り紙でもっともなじみ深い形、折り鶴。何年ものあいだ一日一羽を折り、やがて自分の様式を育てた。模様に切り抜かれた翼、紙の花、民俗的なモチーフ、小さな装飾の細部。
伝統的な折り鶴は、控えめな形だ。一枚の正方形の紙から折り、切らず、貼らない。マリアンチュクはその枠を保ちながら、もっとも厳格な伝統が外すものをすべて加える。刃、糊、紙に重ねた紙。結果は、折り紙というより装身具に近く見える。
彼はルーマニア北東部で、11人きょうだいの一人として育った。子ども時代には農作業があり、外を歩きまわった。それが、嗅覚を含む五感で物事をとらえる土台になったと彼は言う。
鶴から香りへ
2020年、マリアンチュクは香水に目を向け、シリーズ「Olfactory Peregrinations」を始めた。peregrination とは長くさまよう旅、巡礼に近いもの。題は、一つひとつの香りが旅して訪れる場所であることを示している。
どの作品も一羽の紙の鳥で、丁寧に切り、折り、貼り合わせて、ある香水から受けた印象に物としての形を与えている。現代の香水もあれば、ヴィンテージもある。紙の彫刻を通して匂いに物理的な形を与えようとしている、と彼は語っている。そして一羽ずつの鶴は、ある香りの固定された定義ではなく、ある一つの瞬間にその香りについて彼が感じたことを映している。
この最後の点が大切だ。鶴は、その香水が何であるかを言わない。ある日に彼が何を嗅いだかを言う。別の日に嗅ぎ直せば、別の鶴が生まれるかもしれない。作品は分類表よりも日記に近い。
鶴の前では、目が鼻より先に進む。来場者は色、紙の重み、翼の切り込みを見て、そのあとでようやく、その奥にある匂いを想像する。原文を聞く前に翻訳を読むように。
紙と、長い歴史
「Olfactory Peregrinations」は、2023年5月3日から6月5日まで、ロサンゼルスのチャイナタウン、チョンキン・ロードにある Institute for Art and Olfaction の IAO Gallery で展示された。5月9日に内覧会が開かれ、6月2日の夜のイベントで展示は幕を閉じた。
IAO は鶴をただ掛けたのではない。展示テキストは、それらを書くことと折ることの素材の長い歴史の中に置いた。紀元前3100年から3000年頃の粘土板から、紙の到来を経て、7世紀頃の日本での展開へ。そこで折る技は少しずつ形をとった。こう枠づけると、小さな紙の鶴は、人が表面に考えを記録しようとしてきた数千年の、最新の一点になる。
そしてマリアンチュクが記録するのは、もっとも書き留めにくいもの、匂いである。文字はかつて、人が話し言葉をとどめる助けになった。彼の鶴は、言葉をもたない何かをとどめようとする。
「Olfactory Peregrinations」は、IAO が嗅覚アートをいかに広くとらえているかも示している。ここで焦点は香りを放つことではなく、それを別の素材に翻訳することにある。OAK@IAOと同じく、IAO が関心を寄せるのは、どんな素材であれ、匂いがどう考えられ、翻訳され、交わされるかである。