エッセイ · 嗅覚アート
「Storycraft: Twelve Olfactory Narratives」展
Storycraft: Twelve Olfactory Narratives.
香りには言葉がない。物語るには、隣に物が要る。
Institute for Art and Olfaction · Institute for Art and Olfaction
毎週土曜日の6時間
2025年の夏、ロサンゼルスの美術館 Craft Contemporary は、Institute for Art and Olfaction、通称 IAO とのレジデンシーを始めた。プログラムの名は IAO Olfactory Storylab。6月初めから9月初めまで続いた。
方法は厳密だった。毎週土曜日、ひとりの調香師が美術館に来る。持ち時間は6時間。目の前には、フランスの大手香料メーカー MANE が提供した、選び抜かれた素材のセット。課題も決まっていた。その素材で、神話、文化の記憶、あるいはひとつの芸術作品を解釈すること。
6時間は短い。素材は限られている。物語はすでに誰かが語ったものだ。この三つの制約によって、成果は完成した香水というより素描に近くなる。だからこそ見る価値がある。素描は、磨き上げた作品よりもはっきりと、その人の考え方を見せる。
夏が終わると、12の出品は美術館を離れ、チャイナタウンのチョンキン・ロード (Chung King Road) にある IAO のギャラリーへ移った。「Storycraft: Twelve Olfactory Narratives」は2025年9月26日から10月31日まで開かれた。
12の出品、12の物語
参加者の名簿は、スターの列というより、ひとつの共同体のように読める。Dana El Masri。Daniel Krasofski。SAMAR として共に制作する Debbie Lin と Na-Moya Lawrence。Joe Merrell。Julianne Lee。L'lia 'Tizzle' Thomas。Maxwell Williams。Minetta Rogers。Miss Layla。Persephenie。Terry Carter。そして IAO を創設した Saskia Wilson-Brown。
ロサンゼルスで小さなレーベルを営む人がいる。IAO そのものに属する人もいる。植物性の精油で作る人もいれば、より実験室的なやり方をとる人もいる。技術を誇示せよとは誰も求められなかった。求められたのは、語ることだった。
ギャラリーのために、それぞれにもうひとつの課題が与えられた。自分の香りの隣に置く一枚の画像か小さな物を選ぶこと。これが決定的な一歩になる。美術館では、香りは一日の作業の成果だった。ギャラリーでは、それは展示物になる。そして展示物には文脈が要る。
IAO はこの展示の見方を、簡単な頼みで伝える。ゆっくり嗅ぐこと、丁寧に嗅ぐこと。近道はない。訪れた人は身を乗り出し、立ち止まり、それから初めて隣の絵や物に目を向ける。
香りに絵は要るのか
展示の底にある問いははっきりしている。香りは、画像や言葉を伴うほうが物語をよく語るのか。新しい問いではない。けれど、12の例を並べて、これほど率直に試されることはめったにない。
可能性は二つある。絵が助けになる場合。鼻に手がかりを与え、香りが「心地よい」「不快」という漠然とした感覚へ流れていかないようにする。けれど、絵が主導権を奪うこともある。目は鼻より速い。いったん画像を見てしまうと、私たちは探すためではなく、確かめるために嗅ぎがちになる。
展示は訪れた人の代わりに答えない。香りと物の組み合わせは、それぞれ異なる均衡をとる。物が小さなヒントにすぎないものもある。物がほとんど物語のすべてであるものもある。12の組み合わせの前を歩くうちに、訪れた人は自分がどちらの感覚をより信じているかを知る。
IAO は香りを展示空間に置くことに慣れている。チャイナタウンのギャラリーはほかのプロジェクトも迎えてきた。そのひとつが、Olfactory Art Keller との協働OAK@IAOだ。Storycraft が違うのは、香りが芸術かどうかを問わない点にある。その問いは決着済みとして扱われる。問うのはもっと狭く、もっと難しいことだ。香りはどのように物語を語るのか。そのためにどれほどの助けが要るのか。
答えはこうかもしれない。思っているより少ない。小さな物ひとつ、画像一枚で、扉を開けるには足りる。残りは、嗅ぐ人が自分の記憶から持ってくる。