エッセイ · 嗅覚アート
AoA x IAO:「I Smell LA」。
AoA x IAO: I Smell LA.
ひと夏の仕事を、ひとつのノートに。
展示風景、ICA LA。撮影:Jeff McLane / ICA LA · Institute of Contemporary Art, Los Angeles
十一の職場
Institute of Contemporary Art, Los Angeles、通称 ICA LA は、若者のためのプログラム Agency of Assets を運営している。毎年夏、そのフェローたちは街じゅうの文化組織でインターンシップをする。プログラムを組織するのは、ICA LA のラーニング・アンド・エンゲージメント部門ディレクターである飛鳥久(Asuka Hisa)と、アルベルト・ケオシアン(Alberto Keossian)。
2025年の夏、フェローたちは十一の場所で働いた。ICA LA 自身。The Feminist Center for Creative Work。La Plaza de Cultura y Artes、Self Help Graphics & Art、EQT、Everybody.World、The Box、dublab、Heidi Duckler Dance、Latinx with Plants、そして Echo X Park Artist Studio。
リストは多様だ。美術館。ラテン系の文化センター。イーストロサンゼルスの老舗の版画工房。オンラインのラジオ局。ダンスカンパニー。衣料ブランド。植物とともに活動するグループ。どの場所にも固有のリズムがあり、固有の素材があり、固有の空気がある。
そしてフェローたちは、ふつうではない問いを与えられた。ひと夏働いた場所を表すノートをひとつだけ選ぶとしたら、それは何か。
IAO とともに嗅ぐことを学ぶ
答えるには、嗅ぎ方を知り、匂いのための言葉を持っていなければならない。それが Institute for Art and Olfaction の役割だった。香りを芸術実践に持ち込むことに取り組むロサンゼルスの組織である。IAO の創設者サスキア・ウィルソン=ブラウン(Saskia Wilson-Brown)が、香水をつくる過程と、匂いでできた展覧会を考える方法へとグループを導いた。
これは聞こえるより難しい。職場には何十もの匂いが同時にある。紙、インク、コーヒー、埃、床板、リハーサルのあとの汗、鉢の土。ひとつのノートを選ぶことは、ほかのすべてを外すことだ。何が本質なのかについての決断である。
ICA LA の展覧会ページには、どの場所がどのノートを選んだのかが書かれていない。おそらく意図的なのだろう。来場者は前もって知らされない。嗅いでみて、どのノートがダンスカンパニーのもので、どれが版画工房のものかを推し量るしかない。
成果は2025年10月11日から11月9日まで、ICA LA Annex で「AoA x IAO: I Smell LA」の題のもとに展示された。
顔のない肖像
展覧会は二つの部分からなる。まず、組織ごとにひとつずつの単独のノート。次に、そのすべてからつくられた合成の香水。ICA LA はこの合成を、ロサンゼルスの芸術・文化セクターの嗅覚の肖像と呼ぶ。
肖像という言葉には立ち止まる価値がある。肖像にはふつう顔がある。これにはない。誰がどこで働いているのか、誰がより重要なのかを示さない。示すのは雰囲気だけであり、その雰囲気は、この分野でもっとも若い人たちの小さな選択の総和である。
この方法には静かな何かがある。インターンはふつう、組織のなかでもっとも意見を求められない人たちだ。ここでは彼らが、組織が何の匂いがするのかを決める。下からのその眺めは年次報告書にはなかなか見つからないが、小さな小瓶のなかにははっきりと表れる。
同じ季節、IAO は街のもうひとつのプロジェクト「Storycraft」にも関わっていた。12人の調香師が香りで物語を語ったプロジェクトである。並べてみると、二つのプロジェクトは同じ仕事の両端を見せる。「Storycraft」は、プロがすでにある物語を語る。「I Smell LA」は、新しく来た人が自分の物語を語る。知りはじめたばかりの場所についての物語を。
来年の夏には、別のグループ、別の職場、別のノートがある。2025年の合成の香りが繰り返されることはない。それはひとつの季節、ひとつのグループ、ある瞬間のひとつの街の記録である。