エッセイ · 写真

ダヤニータ・シン(Dayanita Singh)「Museum of Chance」

Dayanita Singh. Museum of Chance.

正しい順序はない。あるのはこの並びだけ。

ダヤニータ・シン「Museum of Chance」:持ち運べる美術館のように開く木の構造に収められた白黒写真

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折りたためる美術館

ダヤニータ・シンはインドの写真家だ。自らを、写真で仕事をする本の作り手と述べたことがある。その一言が「Museum of Chance」について多くを説明する。

2014年、シンは「Museum of Chance」を木の展示構造としてつくった。中には、およそ35年にわたる仕事のアーカイブから選ばれた163点の写真。構造は写真を掛けるための壁ではない。開き、折りたたまれ、家具のように部屋に立つ。写真は入れ替えられ、動かされ、内にしまわれる。

「Museum of Chance」は Museum Bhavan に属する。シンが自らの小さな美術館の一族全体につけた名だ。彼女は Museum Bhavan を母なる美術館と呼ぶ。その中のそれぞれの美術館が、独自の木の構造、独自の写真の群れ、独自の開き方をもつ。これに先立ち、彼女は「File Museum」でこの方法を試していた。紙のアーカイブの写真を収めた木の構造だ。

同じ年、この美術館はムンバイのマックス・ミュラー・バワン(Max Mueller Bhavan)と、フランクフルトの近代美術館(Museum für Moderne Kunst)に立った。二つの都市、二つの部屋、それぞれに違う並び。

44の表紙をもつ本

2015年、「Museum of Chance」は Steidl から本になった。88点の写真がムンケン紙にクワドラトーンで印刷され、28 × 32.5 cm、96頁。

もっとも記憶に残るのは表紙だ。88点の写真は44組に分けられ、それぞれの組がひとつの表紙の表と裏になる。だから表紙は44通りある。この本を買った二人が、似ても似つかない物を手にしているかもしれない。本はひとつの顔をもたない。

シンはこの本を、展示できるものにも変えた。木の枠によって、本は壁に掛けることも自立させることもでき、持ち主が選んだ頁で開いておける。2015年には、そうした本の物を五つ蛇腹状につなげ、革のケースに収めた版を7部つくった。2016年には「Suitcase Museum」。二つのスーツケースにそれぞれ22の本の物を収め、3部の版とした。

美術館は、いまや手で運べるものになった。2016年、それはフォト・ドバイとヴェネチアへ旅した。

偶然に並べさせる

美術館にはふつう規則がある。作品は時代、流派、作家で並べられる。来館者は示された順路をたどる。「Museum of Chance」はその規則を捨てる。シンは写真を、主題や日付ではなく、偶然によって出会わせる。

その結果は、カタログよりも夢に近い。はっきりした最初の頁も、最後の頁もない。部屋が人の隣に、そして物の隣に並び、そのあいだに誰も計画しなかったつながりが現れる。見る人は小さな迷宮を行くように、その中を進む。

これは、作品を設置する人の役割を変える。展示はもう、作品が完成したあとの最後の工程ではない。作品の一部だ。木の構造が開かれ、写真が並べ替えられるたびに、作品は新しい版をもつ。

写真は、額に入れられ、固定され、ラベルを貼られることに慣れている。シンはそれを、手に持ち、折り、運び、置くことのできる物へと戻す。写真はふたたび紙になる。美術館はふたたび家具になる。そして見る人は、このときばかりは、並べることを許される。

なぜ残るのか

「Museum of Chance」は、単純で難しい問いを投げかける。写真の意味は、写真の内側に宿るのか。それとも、置かれた場所に宿るのか。

シンは言葉では答えない。順序がいつも開かれたままの物をつくることで答える。44の表紙をもつ本。22冊の本を収めたスーツケース。いくつもの開き方をする木の構造。どの数も、もう一度並べるための誘いだ。