エッセイ · 嗅覚アート

ゲイル・ナルズ(Gayil Nalls)「World Sensorium」

Gayil Nalls. World Sensorium.

誰もが数に入っている香り。

ゲイル・ナルズ「World Sensorium」:地球の香りを収めた琥珀色のガラス瓶


タイムズスクエアの真夜中

2000年の大晦日、ニューヨーク。タイムズスクエアは新しい千年紀を待つ人々であふれている。真夜中、例年どおり紙吹雪が舞う。けれどそこに別の紙片が混じっていた。この日のためにつくられ、マイクロカプセルに香りを閉じ込めたもの。受け止めて引き開けた人は、その匂いを解き放った。

それが、ニューヨークを拠点とする作家ゲイル・ナルズの作品「World Sensorium」の最初の公開だった。この催しはユネスコの後援を受けていた。

台座はない。キャプションもない。作品は空から降り、何を手にしているのか知らない人々のコートのポケットに収まった。

同じ年、ナルズは香りを瓶に詰めた。「First Record」と名づけた初版は、100 ml の琥珀色のガラス瓶18本。世界全体のものだと名乗る作品にしては、小さな数。

すべての国へ、ひとつの問い

ナルズがどう香りをつくったか。それこそが作品の本体だ。数年をかけて、彼女は国連代表部、大使館、領事館、省庁に連絡をとった。問いは簡潔だった。あなたの国の文化にとって、最も大切な芳香植物は何か。

答えは役人たち自身から届いた。花を選ぶ国もあれば、木、樹脂、草を選ぶ国もあった。どの答えも小さな政治的選択だった。国がどう嗅がれたいか。

それから計算。ナルズは各植物のエッセンスを、2000年の世界人口に占めるその国の割合に応じて量った。人が多いほど、瓶の中のその植物の割合は大きい。小さな国もちゃんといる。量が少ないだけ。プロジェクトはこの規則をわずかな言葉で言い表す。誰もが数に入る。

結果は、誰も自分のものとは認められない匂い。あなたの国はそこにいる。何百もの他の国に薄められて。それを見つけるには、他のすべての人を嗅ぐことを受け入れなければならない。

かたちのない彫刻

ナルズは「World Sensorium」を社会的な嗅覚彫刻と呼ぶ。かたちのないものに彫刻とは奇妙な言葉だ。けれど彫刻が空間の中に物質を配置することなら、ここでの物質は植物のエッセンス、空間は小さな容積に圧縮された世界の人口。

社会的という語も同じくらい大切だ。この作品はひとりではつくれない。何百もの政府機関の答え、人口統計、大晦日の群衆が要る。作家は問いを立て、計算をする。残りは、問われた人々のもの。

ナルズはその後、嗅覚を正式に学び、イースト・ロンドン大学で匂いの芸術と科学の博士号を得た。プロジェクトも2000年で止まらなかった。組織「World Sensorium/Conservancy」となり、ミズーリ植物園やデン・ハーグ美術館などで展示され続けている。

シセル・トラースの「Smellscapes」の匂いの地図と並べると、「World Sensorium」は逆の方向へ進む。トラースはある特定の界隈の匂いを、街角の単位まで集める。ナルズは惑星の匂いを集める。あまりに遠くからなので、一人ひとりは合計のごく小さな一部になる。二つの方法、ひとつの問い。ある場所はどんな匂いがするのか。

25年以上が過ぎ、世界の人口は変わった。2000年の瓶の比率は、いまではある瞬間の記録。匂いはもう正確ではない。だからこそ保つ価値があるのかもしれない。鼻で撮った、人類の一枚の写真。