エッセイ · 嗅覚アート
ヴォルフガング・ゲオルグスドルフ「Osmodrama / Smeller 2.0」
Wolfgang Georgsdorf. Osmodrama / Smeller 2.0.
匂いは音のように、来て、去ることができる。
© Osmodrama / Wolfgang Georgsdorf · Osmodrama(公式サイト)
空気で奏でる楽器
Smeller 2.0 は、オーストリアの作家ヴォルフガング・ゲオルクスドルフが開発した、電子制御の香りのオルガンである。重さは約1.6トン、現在64の匂いのチャンネルをもつ。各チャンネルから、用意された匂いをあらかじめ決めた順序で部屋に放つことができる。
ゲオルクスドルフはひとりで仕事をしたのではない。プロジェクトによれば、機械は調香師、嗅覚の科学者、換気技術者、機械技術者、プログラマーとともに造られた。それぞれの分野が、ひとつの問いの一部を解いた。匂いを、画面の映像のようにふるまわせるにはどうするか。
原理は言うのはたやすい。途切れない空気の流れが、歩く速さで部屋を横切る。匂いはその流れに放たれ、空間に均一に広がり、奥の窓から流れとともに出ていく。偶然に混ざるものは何もない。新しい匂いが着くとき、古い匂いはもう去っている。
プロジェクトの説明によれば、8かける8の基本の匂いから、理論上、組み合わせの数は2の64乗に達する。この数字は誇示ではない。作曲者がほとんど限りのないパレットを手にしていることを示している。
試作から教会まで20年
構想は機械よりずっと前にあった。1996年、ゲオルクスドルフは機械式の試作機 Smeller 1.0 をオーバーエスターライヒ州立博物館で発表し、それぞれの匂いを精密に制御できる電子版をはじめて思い描いた。
完成までに16年かかった。2012年、Smeller 2.0 はリンツの OK 現代アートセンターで、展覧会「Sinnesrausch」の一部としてはじめて設置され、稼働した。2013年、ゲオルクスドルフはウィーンで Outstanding Artist Award(学際部門)を受けた。
2016年7月15日から9月18日まで、ベルリン中心部の聖ヨハネス福音教会で Osmodrama Festival が開かれた。プロジェクトはこれを、動く香りのパフォーマンスの最初のフェスティバルと呼んでいる。ゲオルクスドルフは、映画監督エドガー・ライツ(Edgar Reitz)、作家オメル・ファスト(Omer Fast)、俳優エファ・マッテス(Eva Mattes)らとともに、匂いの作品を単独で、あるいは音、音楽、映画、文学と組み合わせてつくった。
2017年、Osmodrama は Art and Olfaction Awards の Sadakichi Award を、調香師ゲザ・シェーン(Geza Schön)とともに受賞した。2018年にはベルリンのマルティン・グロピウス・バウで、展覧会「Welt ohne Außen」に出品された。
匂いの連なりで語る
Osmodrama は、この機械が可能にした芸術形式にゲオルクスドルフが与えた名である。匂いの連なりによる語りと作曲。匂いは画面の映像のように来ては去り、コンサートホールの音のように膨らんでは薄れる。
匂いを時間の中で上演するという考えは新しくない。前世紀のはじめ、サダキチ・ハートマンは観客の前で匂いによる日本への旅を試みた。こうした試みはたいてい同じ壁にぶつかった。匂いは居座り、積み重なり、物語は数分でぼやける。
Smeller 2.0 は、その壁への技術的な答えである。空気は一定に動き、匂いは部屋の外へ運ばれる。だから作曲者は、鼻がまだ二つを区別できるうちに、最初の匂いのすぐあとに二つ目の匂いを置ける。匂いはリズムを得る。休止を。順序を。
Osmodrama について心に残るのは、機械の大きさではない。匂いが文法をもつ言語として扱われていることだ。単独の匂いは、ひとつのものを名指すだけ。連なりに置かれると、匂いはどれもひとりでは言えなかったことを語りはじめる。