エッセイ · 嗅覚アート

ゴールディ・ポブラドール(Goldie Poblador)「The Rise of Medusa」

Goldie Poblador. The Rise of Medusa.

壊れやすいことは、弱いことではない。

ゴールディ・ポブラドール「The Rise of Medusa」:Artpace の深い青の展示室に吊られた、クラゲやサンゴのかたちのガラスの彫刻

Artpace San Antonio · Artpace San Antonio



深い水の色の部屋

2025年秋、ゴールディ・ポブラドールは、Artpace の国際アーティスト・イン・レジデンスとしてテキサス州サンアントニオに滞在した。7月末から9月半ばまで。その成果が「The Rise of Medusa」で、2025年9月11日に開幕し、2026年1月18日まで開催。キュレーターはレジーン・バシャ(Regine Basha)。

来場者が入るのは、深い青に塗られた部屋。光が届かなくなりはじめる深さの水の色。中には九つのガラスの彫刻が吊られている。そのかたちはクラゲ、サンゴ、骨をもたない生き物を思わせる。台座の上には立たない。浮かんでいる。

光がガラスを通り抜け、壁に影を投げる。作家の手の中でつくられた小さなかたちが、漆喰の上で大きく震える姿になる。見る者は物とその影のあいだに立ち、どちらが近いのかわからなくなる。

部屋に水はない。けれど、そこにあるすべては、水の中にいると信じさせるようにつくられている。

ガラス、音、三つの香り

ポブラドールはマニラに生まれ、マニラで制作する。2015年にロードアイランド・スクール・オブ・デザインで MFA を取得し、コーニング・ガラス美術館に作品が収蔵された初めてのフィリピン人作家である。ガラスは彼女の第一の言語。匂いは第二の言語。

九つの彫刻はランプワークでつくられている。小さな炎でガラスを溶かし、引き、ねじり、曲げてかたちにする。この技法からは、とても細い糸と、とても薄いドームが生まれる。まさにクラゲの素材。

音は作曲家ベン・リヒター(Ben Richter)による。Artpace によれば、彼はガラスのかたちに寄り添うよう形づくった楽器からそれを組み立てた。だから部屋の音は背景音楽ではない。吊られた物そのものに属している。

香りは調香師でありアーティストの M・ドハティ(M. Dougherty)による。三つあり、空間を順に続いていく。Oil Slick:金属的で刺すような、海に広がった油のような匂い。Dead Coral:鉱物的で塩気のある、白化して生きるのをやめたサンゴ礁のような匂い。Verde:イランイランとエレミ樹脂をともなう熱帯の花。どちらもフィリピンの暮らしと遺産に結びついた素材。

Medusa、二重に

Medusa という語には二つの意味があり、ポブラドールはその両方を使う。

生物学で、medusa(クラゲ型)はクラゲの生の一段階。私たちがふつう思い浮かべる、釣鐘形で自由に泳ぐかたち。その前、多くの種は海底に固着したポリプとして生きる。medusa は、生き物が手を離し、ひらけた水へ出ていく瞬間である。

ギリシャ神話で、メドゥーサは怪物に変えられた女。髪は蛇、そのまなざしは人を石に変える。よく知られた物語は、彼女を首を落とすべき脅威として扱う。多くの現代の作家や書き手は、彼女を被害者として、正当な怒りの像として読み直してきた。

二つの意味を並べると、題が変わる。「The Rise of Medusa」は、もっとも柔らかな生き物が立ち上がる瞬間。硬くなることによってではなく。生き延びることによって。

名をもつ海

Verde の名は、フィリピンのルソン島とミンドロ島のあいだの海、ヴェルデ島水道に由来する。海洋生物学者は、そこを世界でもっとも海の生き物が豊かな場所のひとつに数える。同時に、船舶、石油、温暖化の圧力にさらされている海でもある。

香りの順番に意味がある。来場者は油から死んだサンゴを経て、ようやく生きた緑へと進む。作品は傷を隠さない。そこで止まりもしない。

ポブラドールが身体と土地を語るために匂いを使うのは、これが初めてではない。「Fertility Flowers」では花と生殖から出発した。「The Rise of Medusa」では水の中へ潜る。素材は変わらない。見るためのガラス、覚えるための香り。

部屋を出たあとに残るのは像ではない。ガラスは美しいが、美術館の美しさである。来場者のあとを追ってくるのは、死んだサンゴの鉱物の塩気と、そのすぐあとに続く、まだそこにある海の花。