エッセイ · 嗅覚アート

ゴールディ・ポブラドール(Goldie Poblador)「Fertility Flowers」

Goldie Poblador. Fertility Flowers.

花はかつて、ひとりの女だった。

ゴールディ・ポブラドール「Fertility Flowers」:花弁から現れる女性の姿をかたどったガラスの彫刻

作家提供 · Goldie Poblador(公式サイト)



ガラス、花の香り、そして映像

「Fertility Flowers」は、フィリピンの作家ゴールディ・ポブラドールによる体験型インスタレーション。2022年、ニューヨークの UrbanGlass で、アパ・アグバヤニ(Apa Agbayani)の企画により初公開された。2023年にはマニラの Finale Art File で再び展示された。

作品は三つの部分からなる。第一にガラスの彫刻。どの花にも似ない、花弁の多い奇妙なかたちから現れる女性の姿。第二に香り。彫刻を囲む部屋に、花の匂いが漂う。第三に映像。ポブラドール自身が伝説の中へ歩み入り、その中心にいる女たちと出会う。

ガラスは長くポブラドールの素材であり続けてきた。透明で、壊れやすく、かたちになるには火を要する。「Fertility Flowers」では、ガラスが花と身体のかたちを保ち、香りがかたちのないものを保つ。空気、記憶、語り。

来場者は彫刻のあいだを歩き、花を吸い込み、それから映像の前に立つ。同じ物語への三つの入口が、同時にひらいている。

花の伝説

作品は、フィリピンに育ついくつかの花の神話と由来から始まる。ポブラドールは、そうした物語の多くで女性の身体が植物に変えられ、その理由がしばしば出産と結びついていることに気づいた。

一つめは dama de noche、Cestrum nocturnum。王妃は世継ぎを産めない。絶望のうちに、彼女は夜にだけ咲く花になる。

二つめはオウコチョウ、Caesalpinia pulcherrima。作品によれば、西インド諸島で奴隷とされた女性たちは、子を奴隷制の中に産み落とさないためにこれを用いた。拒むことの物語。ほかに何の力も残されていない場所で、自分の身体をいくらかでも手放さずにいることの物語。

三つめは cadena de amor、Antigonon leptopus。作品の中で、このつる植物は、スペインの植民地支配がフィリピンの女性に課した道徳的な束縛を表す。その名は愛の鎖を意味する。

神話を書き換える

ポブラドールは語り直すだけではない。作家自身の言葉によれば、彼女は生殖を、植民地と家父長制の権力のもとで女性が何世紀も受けてきた従属の核心と見る。そのうえで神話を想像し直す。フィリピーナはもはや植物に変えられるのではなく、抑圧者から主体性をこじ開けて取り戻し、自分のしかたで花ひらく。

だから彫刻の人物は植物に呑み込まれていない。花弁の中から、抜け出すように立ち上がる。花の香りはなおそこにあるが、その意味は移っている。別のかたちに閉じ込められた者の匂いではなく、そこから踏み出す者の匂いに。

ここで香りは要となる選択である。伝説は言葉で語られ、人から人へ渡される。花の匂いは現実のもので、いまニューヨークやマニラの部屋で吸い込むことができる。それが古い物語を、いまここにいる見る者の身体へ結びつける。

ポブラドールは多くの作品でガラスと香りを扱ってきた。「The Rise of Medusa」もそのひとつで、そこでも彼女はひとりの女性をめぐる神話に立ち返る。「Fertility Flowers」は自国の花へ、フィリピンの人々が聞いて育つ物語へと向かう。

彼女の掲げる目的は簡潔である。女性の生殖をめぐる問題へ、そして無害に見える花の伝説の背後にある抑圧の歴史へ、目を向けさせること。