エッセイ · 嗅覚アート

ハンナ・マリー・マーカス「Commodity Exchange」。

Hannah Marie Marcus. Commodity Exchange.

物の価値は、次にそれを預かる人とともにある。

ハンナ・マリー・マーカス「Commodity Exchange」。作家の両親の家の物を、遺品セールとしてギャラリーに並べた展示

Olfactory Art Keller · Olfactory Art Keller



母のための枕の香り

ハンナ・マリー・マーカスは物語的な作品をつくり、その物語はたいていある特定の匂いを軸にめぐる。2025年3月22日から4月26日までニューヨークの Olfactory Art Keller で展示された「Commodity Exchange」は、ひとつの贈り物から始まった。

マーカスは母のために、1920年のゲランのコロン「Eau de Fleurs de Cédrat」に着想を得た枕の香りをつくっていた。母はフォトリアリズム絵画の先駆者オードリー・フラック。2024年6月に亡くなった。その一か月前、2024年5月には、商品ブローカーだった継父もまた亡くなっていた。

タイトルは彼の仕事から借りている。商品取引所は、あらゆるものに値が付けられた市場。けれどマーカスが交換に出したのは、何よりも値を付けにくいものだった。両親の家の中身。

セドラ、シトロン、エトログ

ゲランの香りを調べるうち、マーカスは cedrat がフランス語で Citrus medica、つまりシトロンを指すことを知った。同じ果実は別の文化で別の名をもつ。エトログ、ウトルジュ。ほかの柑橘がそこから生まれた、三つの原種の柑橘のひとつ。

名前のひとつひとつが、別の層を開く。シトロンは古代エジプトの埋葬儀礼に現れる。古代ユダヤの硬貨に刻まれた。ユダヤ教の仮庵祭(スコット)ではエトログと呼ばれ、儀礼に用いる四種の植物のひとつとなる。イスラームのハディースではウトルジュ。そして調香の世界ではセドラ。

マーカスはそれぞれの物語を通して果実を追った。母のための枕の香りはひとつの果実へ、果実は埋葬、金、信仰へと導いた。埋葬と金は、まさにその年、彼女が向き合っていたものだった。

遺品セール

展示は遺品セールとして構成された。家の持ち主が亡くなったあとに開かれる、あの種の売り立て。両親の家の物が、価値の段階ごとに仕分けられた。

母の薬棚にあった小物には、値が付いていなかった。買い手は好きな額を喜捨箱に入れ、そのお金はギャラリーの支援に充てられた。購入後、買い手はその物を一枚の紙銭に記し、Citrus medica の香りで清め、壁にピンで留めた。壁は少しずつ香りのついた紙で埋まっていった。その一枚一枚が、出ていった物。

より価値の高い組み合わせは、別の仕組みだった。そこにはエジプトのシャブティ、ヴィクトリア朝のインク壺、牛の頭骨が含まれていた。新しい持ち主はただ支払うのではない。預かり手として合意書に署名した。約一年のあいだ配置をそのまま保つこと、そしてその間、作家と定期的にメールを交わすこと。

シャブティには少し立ち止まる価値がある。古代エジプトで墓に納められた小さな像で、死後の世界で死者に代わって働くと信じられていた。副葬品だった。それがいま、持ち主を失ったばかりの家を出て、生きている人とともに旅をしている。

だから「Commodity Exchange」は、売り立てであり、追悼であり、価値についての問いでもある。その二年前、Citromancyでマーカスは柑橘を占いに用いた。ここでシトロンはもう未来を告げない。誰かを見送る。