エッセイ · 嗅覚アート
ライオン・ウィンターシー(Lion Wintersea)/ハンナ・マリー・マーカス(Hannah Marie Marcus)「Citromancy」
Lion Wintersea / Hannah Marie Marcus. Citromancy.
果実はどれも、皮の下に答えをひとつ隠している。
© Hannah Marie Marcus · Hannah Marie Marcus(公式サイト)
果実による占い
「Citromancy」は造語である。citrus(柑橘)に、占いの形式を表す接尾辞 mancy を足したもの。名前が作品のほとんどを語っている。来るべきものを読む儀式だが、道具はカードでも茶葉でもない。香りを仕込まれたオレンジ、マンダリン、ポメロである。
つくったのはハンナ・マリー・マーカス。香り、音、パフォーマンスを扱う作家で、このプロジェクトにはライオン・ウィンターシーの名で署名している。儀式は連動する三つの部分から成る。香りによる占い、音による呼びかけ、そして外典の物語。古いものの姿をまといながら、どの正典にも属さない物語である。
準備の様子は実験台のようだ。マンダリンの交配種、番号のついた小さな旗のピック、香りの小瓶、注射器。果実の一つひとつに、皮越しにそれぞれのブレンドが注入される。外からは何も変わらない。手に取り、皮をむき、鼻に近づけたとき、はじめて果実は語る。ピックの番号はコレクションの目録番号のように読める。演者だけがすべてを把握している小さな体系。参加者に見えるのは、選ばれるのを待つ、整然と並んだ果実のテーブルだけだ。
ニューヨークで三夜、ロサンゼルスで一夜
儀式は、嗅覚アートに特化したニューヨークのギャラリー Olfactory Art Keller で、2023年の冬に3回行われた。1月14日、2月25日、3月18日。
それぞれに主題があった。2月の夜は Direct Relief のためのチャリティーで、ダマスクローズを軸にしていた。3月の夜は春分に近かった。そこでは惑星が柑橘で表された。大きなポメロから小さな金柑まで。テーブルの上に並べられた太陽系。そしてそれは匂った。
音を担ったのは Wintersea Playboy。マーカスとギタリストのオリ・ヒルヴォネン(Olli Hirvonen)によるアンビエント・デュオである。マーカスはエフェクトをかけたアコーディオンとフィドルを奏で、歌った。音楽は飾りではない。それは呼びかけ、儀式の招く部分である。
2023年5月、「Citromancy」はセント・ウィーク(Scent Week)の期間中、ロサンゼルスのアートスペース Reunion へ、コレクティブ Nose Garde とともに旅した。このときは占いのデッキ「Maybe Lenormand」が加わった。ライアン・カポグレコ(Ryan Capogreco)がデザインし、大きなカードに引き伸ばされたものだ。香りとカードが一緒に読まれた。
持ち帰る占い
参加者はただ見ていたのではない。占いを受け取り、占いの詩を持ち帰った。持ち帰ったのは言葉。部屋に残していったのは匂い。
「Citromancy」で心に残るのは、果実の役割をひっくり返すやり方だ。柑橘はあまりに身近で、ほとんど見えない。台所に、祭壇に、贈答のかごに。オレンジの皮は、最も名指しやすい匂いのひとつ。マーカスはその身近なものを取り上げ、見知らぬものにする。果実はもう自分自身の匂いだけを放たない。誰かがそこに置いた別の匂いを運び、手にした者はそれを当てなければならない。
ここでの占いは、未来についての約束ではない。腰を下ろし、ゆっくり嗅ぎ、本当かどうか誰も知らない物語に耳を傾けるための理由である。外典の物語は、その定義からして、信じられることを求めない。ただ聞かれることを求める。
2024年、「Citromancy」は香りを用いた実験的な作品に贈られるサダキチ賞の最終候補となった。マーカスには、香りを日々の交換のなかに置くほかのプロジェクトもある。たとえば「Commodity Exchange」。「Citromancy」では、その体系が手のひらに収まる。一つの果実と、一つの問い。