エッセイ · 嗅覚アート

ロー・ミラー「Soft Time」。

Ro Miller. Soft Time.

鼻にしか測れない時間がある。

ロー・ミラー「Soft Time」:展示中の、香りを放つ彫刻の部分

Olfactory Art Keller · Olfactory Art Keller



かたい時間

「Soft Time」はロー・ミラーの初個展で、2025年1月16日から2月22日まで、ニューヨークの Olfactory Art Keller で開かれた。4つのマルチセンサリーな作品が、ひとつの考えのもとに集められた。香りは、私たちが暮らす場所で時間をどう感じるかを変えうる。

出発点は、展覧会が「Hard Time」と呼ぶ対極にある。予定、締め切り、すでに交わした約束。時と分に区切られ、アラームや電話の通知が告げる時間。それは外からやって来て、その歩調に合わせるよう求める。

「Soft Time」はその応答だ。ミラーは時計を捨てようとは言わない。作品が示すのは、かたい時間と並んで、家にはもうひとつの時間、ゆるやかで遅い時間がありうること、そしてその時間は匂いによって知らされうるということだけ。

試す場として家を選んだことにも意味がある。職場では、かたい時間が決まりだ。家ではその境がぼやける。急がなくてよい朝があり、誰も数えないまま続く夜がある。「Soft Time」はそうしたひとときに形を与えようとし、その形として香りを選ぶ。

香りの水と熱

展覧会の中心は「3 Steam」。香りの水と熱を使う彫刻だ。水が温められ、立ちのぼる湯気が香りを運び、空間の匂いの移ろいが、過ぎていく時間をしるす方法になる。

展覧会のページによれば、「3 Steam」は正確な計時を目指していない。精度よりも、部屋にいる人がどう感じるかを大切にする。意図された選択だ。数分ずれた時計は壊れた時計。昨日より少しゆっくり広がる香りは、それでも香りであり、私たちは午後が進んでいくことを知る。

もうひとつの作品は2025年制作の「The Winston」。展覧会のページでは部分の画像でしか示されていない。残る2作品は Penta が見つけられた資料には記述がないため、このエッセイでは推測しない。

概念としての香り

家の中の香りの物の多くは、スイッチで動く。香るか、香らないか。蝋燭は灯っているか、消えているか。ディフューザーは動いているか、止まっているか。ミラーはその二択を越えて、香りを家に取り入れる方法を提案する。香りは制御されて放たれ、時間とともに高まり、また引いていく。ボタンではなく、曲線。

展覧会はまた、香りを物質としてではなく概念として扱う。匂いには、オレンジや一杯のコーヒーのような特定の物を思い出させる役目がない。数字なしで時刻を告げる床の日だまりのように、しるしとして使われる。

この考えには、美術の中に遠い親戚がいる。河原温は自らの起床の時刻を作品にし、「I Got Up」の絵葉書に分単位で刻印した。河原はかたい時間を、分の単位まで正確に記録した。ミラーは逆へ向かう。数字のない時間。ただ香りに満ち、やがて薄れていく部屋。

「Soft Time」はかたい時間を拒むものではない。締め切りは変わらずそこにある。けれど展覧会は、同じ部屋に2つの時間が共にありうることを示す。そして2つめに気づく感覚が、鼻なのだ。