エッセイ · 嗅覚アート
アレクシス・カール。「The Exquisite Inevitable」。
Alexis Karl. The Exquisite Inevitable.
森は戻るのに許しを必要としない。
撮影:Alexis Karl · Olfactory Art Keller
映画のセットから
アレクシス・カール(Alexis Karl)は映画作家で美術家。2023年11月9日から12月16日までニューヨークの Olfactory Art Keller で展示された「The Exquisite Inevitable」は、インスタレーションとして始まったのではない。映画のセットとして始まった。
カールは、都市型フォークホラーの長編「ANTON」を準備していた。森の植物にゆっくり飲み込まれていくアパートの物語。セットを作るため、彼女はその森を自分のアパートの中に手で組み立てた。そして、それをギャラリーのためのインスタレーションとして作り直した。
映画からギャラリーへ移ると、見る人の立ち位置が変わる。映画では、観客はレンズ越しに、安全な距離から森を見る。ギャラリーでは中に入り、ほどけていく敷物の上を歩き、嗅ぎ、聴き、触れる。
森を自分のアパートに作ったという細部は、注目に値する。作品になる前、それは彼女が共に暮らしたものだった。苔には水をやり、土は湿らせておかなければならない。その匂いは何日も彼女の家を満たしていたはず。森に飲み込まれるアパートという映画の物語は、撮影される前に、半ば現実になっていた。
部屋に残るもの
森には、苔と林床に根を張った作り物の木々がある。蔓が低く垂れ、スパニッシュモスがかかる。ラウンジチェアは生きた苔と植物に覆われている。レコードプレーヤーが終わりなく回り、針が心臓の鼓動のように飛ぶ。
植物のあいだに、ここに住んでいた誰かの痕跡がある。朽ちていくコーヒーマグ、老眼鏡、誰にも読めない言葉を抱えた本。それから、もっと奇妙なもの。石化した木の祭壇。混成の儀礼用の頭蓋骨。半貴石や骨や歯がこびりついた儀礼の器。そして、さまざまな腐敗の段階にある、ありえない生き物たち。
すべてが、誰も語らない出来事のあとのように配置されている。来場者は住人がどこへ行ったのか知らない。見えるのは、森がその仕事をしていることだけ。休みなく、育ち戻っていく。
部屋の中のものは、何も説明されない。来場者は自分でつなぐ。眼鏡は読む人を示す。椅子は座る人を示す。レコードプレーヤーは、かつてレコードを選んだ誰かを示す。一つひとつの物が痕跡であり、森はそれをゆっくり消していく。
森の匂い、腐敗の匂い
香りは作品の中心にある。カールは森の素材そのものからエッセンスを抽出した。キノコ、樹皮、苔、乾いた葉と生の葉、種の莢、どんぐり、土。動物的なムスクや腐敗を含む個々の匂いを取り出し、葉や花茎の青さ、苔や深い土の匂いと並べた。
その対比が作品の内容である。青い匂いは育っていく生。ムスクと腐敗は、ほどけていく生。本物の森では、二つはいつも一緒にある。新しい葉は、朽ちていく古い葉の中から伸びる。
最後の層は音。森の音がオペラと低い機械のうなりに溶け合う。展覧会のページによれば、この作品は、生い茂った植物が容赦なく再生を続ける不穏なポストヒューマンの世界を描き、何が本物で何がそうでないかを問う。
その問いは素材に組み込まれている。木は偽物、苔は本物。土は本物、生き物は偽物。匂いはいつも本物。偽りの森を作るために抽出されたとしても。Olfactory Art Keller のプログラムの中でも、この境界をここまでぼかす作品は少ない。