エッセイ · 嗅覚アート

ヘルガ・グリフィス「Essence of Coal」。

Helga Griffiths. Essence of Coal.

石炭は、長く眠った森。

ヘルガ・グリフィス「Essence of Coal」。ミュールハイム・アン・デア・ルール美術館での光のインスタレーションと石炭の素材

© Helga Griffiths · Helga Griffiths(公式サイト)



石炭の最後の年

2018年、ドイツは坑内での硬炭採掘を終えた。鉱山が都市や工場、何世代もの暮らしを形づくってきたルール地方にとって、それは大きな転換点だった。何世紀も続いた生業が止まった。

同じ年、ミュールハイム・アン・デア・ルール美術館(Kunstmuseum Mülheim an der Ruhr)で、ヘルガ・グリフィスは「Essence of Coal」を展示した。美術館は2022年に再びこれを展示した。

正式なタイトルには18Cが含まれる。Cは炭素の元素記号、石炭を成す元素。18は2018年。つまりタイトルは化学式であり、日付でもある。掘られるのをやめた年の、炭素。

黒い塊を蒸留する

「Essence of Coal」はいくつかの部分からなる。第一は蒸留。化学の教授ミヒャエル・レッゲリンの監修のもと、石炭を分離工程に通してエッセンスを引き出した。映像がその全工程を記録しており、見る者は黒い塊がゆっくりと液体になるのを見る。

第二の部分は香水。石炭のエッセンスから、調香師カール=ハインツ・ボルクがひとつの香りをつくった。作家のサイトによれば、それは原生林と炭鉱の風景の両方を思い起こさせる。ひとつの時代の記憶の貯蔵庫として構想された。

二つのイメージは矛盾しない。石炭は、ごく古い森の植物が長い時間をかけて埋もれ、圧縮されてできる。炭鉱は、人がその森をふたたび掘り出す場所。森と鉱山の両方を思わせる匂いは、この物質の一生をたどっている。

インスタレーションの中で、香水は商品として立ってはいない。嗅ぎ、思い出すための物として、それを生んだ工程の映像の傍らに置かれている。

石炭からダイヤモンドへ

第三の部分は別の道をたどる。Battuta のベルント・ミルデンベルガーとトルステン・シュテューラーが、非常に高い圧力と温度のもとで、炭素を含む素材から合成ダイヤモンドをつくった。二本目の映像がその工程を記録する。

並べられた二本の映像は、ひとつの元素の二つの運命を語る。石炭は柔らかく、暗く、層をなす。ダイヤモンドは硬く、透明で、貴い。どちらも炭素。違うのは原子の並び方と、それらに起きたことだけ。

最後の部分は立体的な光のインスタレーションで、絶えず移ろうよう制御されている。訪れる人はその中を歩き、火、土、空気、水という四つの元素に順に出会う。それはまた、森から炉まで、石炭がその歴史のなかで通り抜けるものでもある。

匂いで風景を保つ

ひとつの産業が終わると、その風景は急速に変わる。立坑櫓は解体されるか博物館になる。ボタ山は草に覆われる。鉱夫たちは年老いる。最初に消えるのは、たいてい誰も記録しようと思わなかったもの。空気中の炭塵、家に帰ってくる作業着の匂い。

グリフィスはまさにそれを、回り道で記録することを選んだ。鉱山の匂いを捕らえたのではない。物質そのものを蒸留し、その匂いに自らの出自を語らせた。

同じ年、彼女は同じ主題でもうひとつの作品をつくった。稼働する最後の炭鉱に降り、その空気をガラスの容器に封じた。その作品がL'Air du Charbon。「Essence of Coal」が、物質がまだ何を抱えているかを問うなら、「L'Air du Charbon」は、場所がまだ何を抱えているかを問う。

「Essence of Coal」は、過酷な生業を悼みもせず、美化もしない。ただひとつのことをする。炭素が匂いを残さずに去ることを拒む。