エッセイ · 嗅覚アート
セルジオ・ヴェガ「Tropicalounge」。
Sergio Vega. Tropicalounge.
楽園にも匂いがある。そして誰かがそれを選んだ。
エデンを探して
セルジオ・ヴェガ(Sergio Vega)はアルゼンチンに生まれ、フロリダで暮らし制作している。長年にわたり「Paradise in the New World」という長いプロジェクトを続けてきた。始まりは17世紀の植民地時代の写本で、その著者は聖書のエデンの園が南アメリカにあると主張していた。
ヴェガはそれを探しに出た。探索は彼をブラジルのマットグロッソ州へ導いた。熱帯雨林、湿地、山地、遺跡、先住民保護区、農村の町、スラム、都市からなる地域である。
彼が見つけたのは楽園ではなかった。神話、植民地の歴史、日々の暮らしが重なり合う、層をなすブラジルだった。2002年から2005年にかけてつくられた Tropicalounge は、彼の答えのひとつである。
アルセナーレのラウンジ
2005年、Tropicalounge は第51回ヴェネツィア・ビエンナーレのアルセナーレ、ローザ・マルティネス(Rosa Martínez)が企画したセクションで初めて公開された。
来場者は、ロビーか居間のような場所に入った。調和した配色のデザイナー家具。鉢植えの異国の植物。流れるなめらかなボサノヴァ。空気のなかのポプリ。いくつかの物や一角は、座って触れるよう誘っていた。
その周りには、プロジェクトのほかの部分があった。ボサノヴァ崇拝についての展示、ブラジリアのモダニズムの都市景観についての展示、そして熱帯の道端のシュルレアリスムの瞬間。電話ボックスのなかの実物大のワニもそのひとつだ。
ヴェガはのちに Tropicalounge をボストン現代美術館(Institute of Contemporary Art)の Momentum シリーズへ持ち込んだ。そこでは鮮やかな色の家具、鉢植えのヤシ、写真、建築模型、彫刻を、美術館のためにつくった新作と組み合わせた。
様式としての楽園
Tropicalounge は、ホテルのロビー、インテリア雑誌、イージーリスニングのレコードの言葉を借りる。消費のために規格化された熱帯。森ではなく鉢のなかのヤシ。1950年代と1960年代の文化運動としてではなく、背景音としてのボサノヴァ。
ボサノヴァとブラジリアは同じ時代に属する。ブラジルが未来を見つめていたころだ。近代的な計画に沿って高原に築かれた新しい首都。世界を旅した、軽やかで知的な新しい音楽。外から見れば、若く楽観的で近代的な国のイメージだった。
ヴェガはそのイメージを、マットグロッソの道で見たものの隣に置く。約束された楽園と、その約束の縁で暮らす人々。作品は、誰が熱帯のラウンジに座れて、誰が座れないのかを言わない。まず座らせ、それから問わせる。
居間の匂い
Tropicalounge の要素のなかで、ポプリはもっとも小さい。だがそれは、家具にも音楽にもできないことをする。来場者を包み込む。よく見たり聴いたりしなくても、人はすでに楽園のなかで呼吸している。
ポプリは室内の匂いだ。部屋が清潔で、温かく、人が暮らしているように見えるよう置かれる。ほかの匂いを覆う。Tropicalounge でそれは絵を完成させる。不快なもののない、美しく柔らかな場所。
だから匂いは問いの一部になる。ある場所がこれほど心地よくなるために、何が外されなければならなかったのか。どの匂いが覆われたのか。この作品は、エルネスト・ネトの「Anthropodino」とよく並ぶ。スパイスの匂いで身体のための空間を築いた、もうひとりのブラジルのアーティストの作品だ。ふたつの作品、匂いで国について語るふたつの方法。