エッセイ · 嗅覚アート

アンバー。琥珀から来ない匂い。

Amber. A smell that doesn't come from amber.

人は琥珀の茶色を見て、ぬくもりを思い描いた。

白い紙の上のラブダナム樹脂のかけらと、数粒のシャム・ベンゾイン


化石の琥珀:匂いのない物

琥珀は化石になった樹脂である。数千万年前、木は樹皮の傷をふさぐために樹脂を流した。樹脂は流れ、固まり、埋もれた。とても長い時間のうちに揮発する部分は抜けてゆき、残ったものは石のように澄み、プラスチックのように軽いものになった。

バルト海の沿岸は、古代から琥珀で知られてきた。ギリシャ人はそれを elektron と呼び、こすると小さなかけらを引き寄せることに気づいていた。electron という言葉はそこから来ている。

嗅ぐ者にとって大事な事実はこうだ。室温では、琥珀にはほとんど匂いがない。化石化が香る部分を持ち去った。燃やすか熱したときにだけ焦げた樹脂の匂いを出すが、それは香水がアンバーと呼ぶものとはまるで違う。

それでもアンバーは、ひとつの匂いの系統の名になった。匂わない物の匂い。

ラブダナム、バニラ、シャム・ベンゾイン

調香師がアンバーと呼ぶものは、組み立てられたぬくもりである。たいてい三つの源がある。

一つ目はラブダナム。地中海の低木シスタスの樹脂である。暑い季節、その葉と若い枝はべたつく樹脂をにじませる。ギリシャの歴史家ヘロドトス(Herodotus)は、茂みをかすめた山羊の髭からそれが集められる様子を記している。クレタ島では、革ひもを並べた熊手を茂みの中に引いて集めた。ラブダナムは濃く温かく、革と干しプラムの匂いがする。

二つ目はバニラ。1874年、ドイツの化学者フェルディナント・ティーマン(Ferdinand Tiemann)とヴィルヘルム・ハールマン(Wilhelm Haarmann)が、バニラの匂いの主な分子であるバニリン(vanillin)を合成した。その温かな甘さは安く手に入りやすいものになり、ほとんどすべてのアンバーに入りこんだ。

三つ目はベトナムに近い。シャム・ベンゾイン、ラオス、ベトナム北部とその周辺に育つ木 Styrax tonkinensis の樹脂である。種名はトンキンを指している。その樹脂はバニラとホワイトチョコレートの匂いがし、甘くやわらかい。香水ではしばしばラブダナムやバニラと並び、アンバーのぬくもりをつくる。

三つの樹脂、三つの土地。どれも琥珀ではない。

二つの言葉、二つの物

話にはもう一枚の層が加わる。同じ名を持つ物がもうひとつあるからだ。アンバーグリス(龍涎香)である。マッコウクジラの腸の中でできて、何年も海を漂い、日の光と海水に変えられ、岸に打ち上げられる。化石の琥珀と違って、アンバーグリスには本当の匂いがある。海、温かな肌、湿った木。

ヨーロッパの言葉 amber はアラビア語から来て、はじめはアンバーグリスと結びついていた。のちに同じ言葉が化石の樹脂に移った。フランス語にはこの混同の跡が残っている。ambre gris、灰色のアンバーはアンバーグリスであり、ambre jaune、黄色のアンバーは化石の樹脂である。

だから誰かがアンバーと言うとき、それは匂いのない石かもしれないし、鯨から来た物質かもしれないし、生きた樹脂の組み立てかもしれない。ひとつの言葉の下に、三つの物。

匂いとして名づけられた色

なぜひとつの匂いの系統が、匂いのない石の名を名乗るのか。確かなことは誰にも言えない。けれどひとつの見方がある。アンバーという言葉は、匂いより先に色を語る。金色がかった茶色、澄んでいて、蜂蜜越しのランプの光のように温かい。人はラブダナム、バニラ、ベンゾインを嗅ぎ、心の中にその色を見て、匂いにその名をつけた。

匂いではよくあることだ。鼻には自分の言葉が足りないので、目から借りる。緑の匂い。白い匂い。暗い匂い。アンバーはそのもっともはっきりした例にすぎない。借りた言葉が、ひとつの系統全体の名になったのだから。

手の中の琥珀には、今も匂いがない。けれどそれは鼻に名を与えた。