エッセイ · 嗅覚アート
カローラ・ブラガ(Karola Braga)。「Lágrimas, Terra e Crisântemo」。
Karola Braga. Lágrimas, Terra e Crisântemo.
白く、清潔なシーツ。そして喪失の匂いを帯びている。
撮影:Thiéle Elissa、Anderson Astor、Marcelo Curia / Terramar Imagem e Conteúdo · Karola Braga(公式サイト)
川の前のシーツ
2022年、ブラジル南部のポルト・アレグレで第13回メルコスール・ビエンナーレ(Bienal do Mercosul)が開かれた。会場のひとつが、グアイバ川の古い港カイス・ド・ポルトの倉庫、アルマゼンA6だった。
川に向かって、カローラ・ブラガは物干し綱を張った。そこに白いベッドシーツが一枚。ほかには何もない。大きな文字も、像もない。水面を渡る風に揺れる布だけ。
シーツには、作家が喪の匂いと呼ぶ香りが染み込ませてあった。題名がその三つの要素を名指す。Lágrimas、涙。Terra、土。Crisântemo、菊。風が吹くたびに布が動き、匂いを周りの空間へ押し出した。
作品はビエンナーレの委嘱によるもので、香りと香料の大手企業ジボダン(Givaudan)の支援を受けた。川沿いを歩く来場者は、見るより先にそれを嗅ぐことができた。
隠喩としてのベッド
ブラガがベッドシーツを選んだのには理由がある。彼女自身の言葉では、ベッドは守られ、夢を見、つながる場所だ。同時に、痛み、孤独、断絶の場所でもある。人はベッドで生まれ、愛し、病み、死ぬ。
作品は分かち合われた喪失について語る。とりわけ、儀式のない別れについて。ここ数年、多くの人が最期に愛する人のそばにいられず、いつものように葬儀を営めず、別れを告げられなかった。その悲しみには、置き場所がなかった。
ブラガはそれに場所を与える。葬儀場でも、墓地でもない。屋外の、物干し綱。ふだんは最もありふれた家事のための場所だ。シーツを干すのは穏やかな日のこと。ここではそれが別れの儀式になる。
題名の菊も中立ではない。多くの文化で菊は葬儀の花、墓参りの花だ。土は埋葬を思わせる。涙に説明はいらない。
清潔の匂いを反転させる
香り、言葉、記憶は、カローラ・ブラガの探究の三本の主な糸だ。彼女はしばしば名前や言葉と、それに結びついた匂いを扱う。この作品では題名が処方になっている。名を読めば、吸い込む前に、匂いが何でできているかがわかる。
作品の最も強い一手は、なじみの考えの反転にある。綱に干された白いシーツは清潔さ、さらには無菌を表す。来場者は石鹸と陽の光を期待して近づく。受け取るのは、土、葬儀の花、涙。清潔さは悲しみを消さない。覆うだけだ。
作品は、来場者が近くに立つことも求めない。匂いは布を越え、風とともに、強く、また淡く漂う。川を見ているときに気づく人もいる。背を向けたあとに気づく人もいる。誰かを恋しく思う気持ちのように、誰も待っていないときにやって来る。
2023年、作品は第9回アート・アンド・オルファクション・アワード(Art and Olfaction Awards)で、香りを使った実験的作品に贈られるサダキチ賞(Sadakichi Award)の最終候補となった。ブラガは香りを空間に置く作品をほかにもつくっている。テオ・ビバンコス(Theo Bibancos)との「Sfumato」のように。ポルト・アレグレで彼女に必要だったのは、布一枚と、綱と、川からの風だけだった。
ビエンナーレが終わると、シーツは下ろされた。布の匂いは、どの匂いもそうであるように薄れていく。だがその前に立った人は、次に白いシーツを干すとき、思い出すかもしれない。