エッセイ · 嗅覚アート
カローラ・ブラガ(Karola Braga)。「Sfumato」。
Karola Braga. Sfumato.
煙で描き直された古い道。
画像:Lance Gerber · Karola Braga(公式サイト)
乳香の道の砂漠
アルウラはアラビア半島の北西にあり、かつて乳香の道の宿駅だった土地だ。何世紀ものあいだ、隊商が乳香と没薬を半島の南から北へ運び、東と西を結んだ。その道で最も貴重な品は、長く目に見えることがなかった。燃やされ、煙になり、消えた。
2024年、デザートX アルウラ(Desert X AlUla)は作家たちをこの砂漠に招いた。展覧会は2月9日から3月23日まで、アルウラ王立委員会の委嘱で開かれた。おもに匂いを扱うブラジルの作家カローラ・ブラガは、「Sfumato」という作品を持ち込んだ。
ブラガは歴史を像で語り直さないことを選んだ。その歴史をつくった匂いで語ることを選んだ。乳香と没薬、この道の主な積み荷だった二つの樹脂。
1万1千個のコーン
作品は、砂漠に置かれた仮設の砂の構造物だ。中には金属の扉と屋根を持つ香の部屋がある。その燃料は、天然の材料、主に乳香と没薬を手で巻いた1万1千個を超える香のコーン。
香は無作為に選ばれたのではない。作家によれば、チームは何か月も研究を重ね、汚染物質を出さずにゆっくり均一に燃えるようにした。砂漠の生態系は壊れやすいからだ。ダクトの仕組みが煙を外へ運ぶ。内部の負圧が、煙を目に見える流れとして送り出す。
一日に数回、構造物が起動する。煙が立ちのぼり、その瞬間から作品はもう作家の手の中にない。風が決める。強い風は香りの軌跡を引き延ばす。風向きが変われば、別の場所へ送る。来場者は匂いを追い、あるいは立ち止まって、それが届くのを待つ。
砂の形は、空の下に置かれた巨大な香炉を思わせる。だが室内の香炉と違って、煙をとどめる壁がない。砂漠全体が部屋になる。
ある描き方の名
スフマートはイタリアの絵画用語で、輪郭線を持たないごく柔らかな階調の移ろいを指す。形が霞を通したように地に溶け込む。語源は fumo、煙。
ブラガは文字どおりの意味を取り戻す。煙を描く代わりに、煙を使って地平をぼかし、構造物と風景の境を和らげる。作品には、写真に収められる決まった形がない。一時間ごとに、一吹きごとに、違う輪郭を描く。
これは珍しい種類のランド・アートだ。ランド・アートの多くは地面に跡を残す。溝、石の環、螺旋。「Sfumato」は空中に跡を残す。何も長くはとどまらない場所に。
何も残さない
作家によれば、会期を通じてコーンは砂漠に香りを満たし、恒久的な痕跡を何も残さなかった。砂の構造物は仮設。灰は砂に沈む。煙は空に溶ける。
それは作品が呼び起こす道と重なる。乳香の道は、物としての痕跡をほとんど残していない。その品々は、神殿で、家で、儀式で、消えるためにつくられていた。乳香の価値は、それが自分であることをやめる瞬間にある。
「Sfumato」はその瞬間を1万1千回繰り返し、そして退く。ブラガは匂いを主な素材とする作品をほかにもつくっている。「Lágrimas, Terra e Crisântemo」のように。だがアルウラでの彼女の作品には、誰にも指示できない協働者がいた。砂漠の風。