エッセイ · 嗅覚アート

ケイト・マクリーン(Kate McLean)。「Smellmap: Amsterdam」。

Kate McLean. Smellmap: Amsterdam.

街の匂いは、その評判とは違う。

ケイト・マクリーン「Smellmap: Amsterdam」。スメルウォークから描かれた、街の匂いの地図

© Kate McLean · Sensory Maps(Kate McLean 公式サイト)



4月の4日間

2013年4月、アムステルダムの春は遅かった。4日間にわたり、44人が街の界隈を歩いた。写真は撮らず、道も探さなかった。嗅いだ。

それは、ケイト・マクリーンが率いた10回のスメルウォークだった。マクリーンはイギリスのアーティスト、デザイナーで、世界各地の都市の匂いの地図で知られる。方法は単純だ。一群の人をゆっくり導き、立ち止まり、気づいた匂いをすべて、その人自身の言葉で記録する。

4日後、歩いた人たちは650を超える匂いを書き留めていた。その記述から、マクリーンは50の大きな分類を見出した。よく挙がった匂いも、たった一人が気づいた奇妙な匂いも、地図に載った。

地図は2014年に完成した。1メートル四方のデジタルプリント。制作は、ベルナルド・フレミング(Bernardo Fleming)と、オランダのヒルフェルスムにある大手香料会社 IFF の嗅覚デザインスタジオとの協働による。2021年、フレミングは夢のなかで出会う匂いをめぐる初の個展「Dreaming in Smell」を開いた。

アムステルダムは何の匂いか

いちばん強くあったのはワッフルだった。温かく、甘く、砂糖の、粉っぽい匂いが屋台から漂う。次に、アジア系やスリナム系のレストランやスーパーのスパイス。この街に住みに来た人々の痕跡である。

屋台や市場には、酢漬けのニシンがあった。今日の街を、そのもっとも古い商いの一つにつなぐ匂い。地下の戸口には古い本があった。街の小さなハウスホテルからは、洗濯の湯気が通りへ立ちのぼっていた。

そして春があった。太陽、花、若葉の匂いが、遅い春がようやく来たことを告げていた。ときおり、チョコレートパウダーの小さな雲が流れていった。

リストとして読むと、それはとても具体的な街を描いている。観光のブランドではない。人が料理し、服を洗い、本を読み、魚を売る場所。

欠けている匂い

人はアムステルダムに大麻の匂いを予想する。ほかのどの匂いよりも、この街の評判と結びついた匂いだ。

マクリーンによれば、大麻の匂いは強く、アスパラガス、洗剤、ベーコン、歯科医院と同じくらい強烈に感じられる。けれど現れたのは二つほどの界隈だけだった。地図に載るほどではない。

その細部こそが、この地図を面白くしている。人がある場所について信じていることと、そこで実際に嗅ぐものとのあいだの隔たりを示す。評判は物語、映画、観光キャンペーンからつくられる。匂いは、その場でしかとらえられない。

だから匂いの地図は、ただの地図ではない。静かな訂正である。

地図のその後

2014年、「Smellmap: Amsterdam」は IFF との協働の一環として、アムステルダムのアートセンター、メディアマティック(Mediamatic)での個展で展示された。同じ年、データ可視化の主要な国際会議、パリの IEEE VIS 2014 のアートプログラムに選ばれた。

同じく2014年、英国地図学会(British Cartographic Society)の電子地図部門 Avenza Award を受賞した。これは目を留める価値がある。匂いの地図が、地図の作り手たちから本物の地図として認められたのだ。

2018年には、ニューヨークのクーパー・ヒューイット・スミソニアン・デザイン・ミュージアムの「The Senses: Design Beyond Vision」に登場した。キュレーターはエレン・ラプトン(Ellen Lupton)とアンドレア・リップス(Andrea Lipps)。地図はマンチェスター大学図書館の常設コレクションに収められている。