エッセイ · 嗅覚アート
ベルナルド・フレミング。「Dreaming in Smell」。
Bernardo Fleming. Dreaming in Smell.
夢は匂いを残していくことがある。
Institute for Art and Olfaction · Institute for Art and Olfaction
匂いで夢を見る男
夢の多くは映像と音だ。匂いが現れることはまれである。展覧会のテキストは1998年のカナダの研究を引く。夢の中で何かを嗅いだことがある人は少数にすぎない。
ベルナルド・フレミングはその少数のひとりだ。アルゼンチンに生まれ、20年以上香りの業界に身を置き、世界最大級の香料会社のひとつ IFF で、トレンドと戦略的フォーサイトのグローバル・ディレクターを務める。つまり彼は一日じゅう匂いの中で生きている。そして夜、匂いは彼を追って眠りの中へ入ってくる。
「Dreaming in Smell」は彼の初個展で、2021年11月12日から12月2日まで、ロサンゼルスの IAO Gallery で開かれた。Institute for Art and Olfaction がギャラリーを再開した際の最初の展覧会のひとつでもあった。
ベッドのそばのノート
方法は簡単なところから始まる。フレミングはベッドの横にノートを置いている。毎朝、夢とその中の匂いを、消えてしまう前に書き留める。
彼はそのメモを IFF のシニア調香師たちのもとへ持っていった。それぞれがひとつの夢を受け取り、香りに翻訳した。翻訳はたやすくない。夢の匂いにはラベルがない。感情と、場所と、いま通り過ぎた誰かと絡み合っている。
その結果が四つのファブリックスプレーである。それぞれに夢の名と日付があり、多くには夢を見た場所も記されている。オランダのナイメーヘン。
四つの夢
「Dentista」、2016年5月、リカルド・モヤ。歯科医院から帰ってくる母の夢。香りは母が毎日つけていた香水 Cabotine de Grès を軸に、クローブ、バジル、そして歯科の診療室でおなじみの分子オイゲノールで組み立てられている。温かく、同時に診療室のように清潔。
「Departures」、2021年2月23日、Anh Ngô Nguyễn Việt。誰もいないカジノ、不安、湿った絨毯の匂い。そこへ突然、ほかの客たちの花とヘアスプレーがあふれ出す。チュベローズ、ジャスミン、オレンジフラワー。その下にアニマリックでムスキーな土台。
「Dýer Mak'er」、2021年9月18日、ミーヴ・マッカーティン(Meabh Mc Curtin)。レッド・ツェッペリンの曲にちなむ名で、カセットテープとともにあった瞬間、大人の世界へ足を踏み入れる感覚に結びついている。パロサントとセージを軸に、ジュニパー、アルモワーズ、ペッパー、シダー、アンバー。
「Cana」、2021年10月6日、ビルギット・セイブランツ(Birgit Sijbrands)。警察による奇妙な検問を夢に見た。物のまわりの空気を採取する IFF の技術でとらえた赤ワインのアコードを軸に、オリス、バイオレット、ローズ、ムスク。
ベッドから出て、ベッドへ戻る
ギャラリーで、四つの香りはガラスの向こうにはない。シーツや枕に吹きつけられ、物干しロープに掛けられ、棚に積まれている。訪れた人は布に触れ、顔を寄せるよう招かれる。
この選択が円を閉じる。夢はベッドで生まれる。紙に書かれ、調香師の手を通り、液体になる。そして布へ戻る。そこで別の誰かが横になり、自分の眠りの中へ運んでいくかもしれない。
フレミングは、匂いにはほかの感覚にない力があると言う。言葉を経ずに、連想と記憶を通じてじかに働く。夢の匂いを語り直すのがこれほど難しいのは、そのためかもしれない。
この作品は、サイラス・クラークの「The Anemoia Device」のように、匂いを通して記憶を記録しようとする装置と近い関係にある。けれどもフレミングに機械はいらない。ノート一冊と、朝と、夢が去る前にとらえられるだけ素早い記憶があればいい。