エッセイ · 嗅覚アート

マルセル・デュシャン(Marcel Duchamp)。「Belle Haleine, Eau de Voilette」。

Marcel Duchamp. Belle Haleine, Eau de Voilette.

二文字を入れ替えれば、人が変わる。

マルセル・デュシャン「Belle Haleine, Eau de Voilette」:マン・レイが撮ったローズ・セラヴィの肖像を新しいラベルにした、リゴーの香水瓶

Centre Pompidou · Centre Pompidou



棚から取った瓶

1921年、マルセル・デュシャンは店で売られているような、リゴー社の香水瓶を手に取った。瓶をつくったのではない。なかの香りを調合したのでもない。ラベルを取り替えただけだ。

これは、デュシャンが何年も追求してきたレディメイドの論理である。既存の物を選び、芸術の文脈に置き、選択そのものを作品にする。「Belle Haleine」で彼はさらに一歩進んだ。物は、わずかとはいえ手を加えられた。研究者はこれを補助された、あるいは修正されたレディメイドと呼ぶ。

新しいラベルはマン・レイとつくられた。そこには彼が撮った肖像と、作品の題「Belle Haleine, Eau de Voilette」が載った。瓶は瓶のままだった。けれどいまや、別の誰かのものになった。

ラベルの顔は、デュシャンの分身ローズ・セラヴィ(Rrose Sélavy)だ。マン・レイの写真で、デュシャンは女性の装いをしている。写真に説明は要らない。香水メゾンが自らの顔を置く、まさにその場所にある。フランス語で声に出すと、その名は愛と人生についてのよく知られた言い回しに近く響く。デュシャンが好んだたぐいの語呂合わせだ。

商業的な香水はしばしば、買う人がなりたいと願う女性を見せる。デュシャンはその慣習を守り、ひっくり返した。ラベルの女性は男性だ。人をより魅力的にすると約束する香水が、いまや問う。それは誰の魅力なのか。アイデンティティは、貼りつけられたラベルにすぎないのか。

ポンピドゥー・センターは、この作品を撮ったマン・レイの1921年の写真のガラス乾板ネガを所蔵している。12 x 9 cm、1995年にリュシアン・トレイヤールが寄贈した。美術館はこれをダダのなかに位置づけ、言葉遊び、ユーモア、異性装を挙げている。

入れ替えた二文字

ラベルの文字こそ、作品が最も多くをなす場所だ。元は violette、すみれだった。デュシャンは文字を入れ替えて voilette、薄いヴェールにした。すみれの水は、ヴェールの水になった。

「Belle Haleine」は美しい息を意味する。ポンピドゥーによれば、これは「Belle Hélène」、美しきヘレネをもじった冗談だ。神話の人物が、身体的なものに置き換えられる。息。誰もが持ち、口にする人はほとんどいない匂い。

数文字が動くだけで、瓶全体の意味が変わる。花はヴェールになる。ヘレネは息になる。男は女になる。瓶には何も加えられない。すべては表面で起きる。

雑誌の表紙から嗅覚アートへ

1921年4月、瓶の写真が「New York Dada」の表紙の中央に載った。マン・レイとデュシャンが一号だけ出した雑誌だ。そのまわりに、題と日付が逆さまに刷られた。香水瓶は「New York Dada」の顔になった。

「Belle Haleine」は、香水を概念的な素材として用いた二十世紀最初期の作品のひとつとしてよく挙げられる。見る人に嗅ぐものを何も与えない。嗅ぐことについて考えさせる。売られるあらゆる香りについてくる名前、ラベル、イメージについて。

ほぼ一世紀後、その題は芸術における匂いをめぐる大規模な展覧会「Belle Haleine, The Scent of Art」に借りられた。この借用が、小さな瓶の立ち位置を語っている。鼻もまた思考の器官である芸術の系譜、その始まりに。