エッセイ · 写真
ニコラス・ニクソン(Nicholas Nixon)「The Brown Sisters」。
Nicholas Nixon. The Brown Sisters.
並びは変わらない。変わるのは時間だけ。
Aperture · Aperture
四人、ひとつの並び
1975年、ニコラス・ニクソンは一枚の家族写真を撮った。写っていたのは妻のビービー(Bebe)と、その三人の姉妹、ヘザー(Heather)、ミミ(Mimi)、ローリー(Laurie)。ブラウン家の四姉妹が並んで立った。左から、ヘザー、ミミ、ビービー、ローリー。
翌年、彼はもう一枚撮った。その翌年も。並びは同じままだった。以来ニクソンは年に一度四姉妹を撮り、一枚を選んで残した。シリーズの名は「The Brown Sisters」。いまでは四十年以上続いている。
発想に複雑なところは何もない。手の込んだ演出も、掲げられたテーマもない。あるのは静かな約束だけ。毎年、それをすること。そして、ほとんど誰も気づかない条件。写される四人もまた、毎年戻ってきて、レンズの前の自分の場所に立つことを承諾しなければならなかった。
8x10のカメラと遅さ
ニクソンは8×10インチのビューカメラを使う。三脚に据え、写真家が暗幕の下からピントグラスに映る倒立像をのぞき込むタイプのカメラである。一回の露光に一枚のシートフィルム。毎年多くの露光を重ね、そのなかから一枚だけを、その年の肖像として選ぶ。
写真はモノクロ。大きなフィルムは細部まで記録する。シャツの織り目、一本の髪、目尻の皺。遅いカメラは、ふつうの家族のスナップよりも長く、四人を静止させ、レンズを見つめさせる。多くの写真が、笑わず、ほとんど厳かに、正面から見る者と向き合う。
その遅さが、このシリーズを家族アルバムから分ける。アルバムの写真は休日や幸せな日を記す。「The Brown Sisters」が記録するのは、カメラとの定期的な約束であり、ほかに理由を必要としない。
変わるもの、変わらないもの
並べると、写真はどれ一枚でも示せないものを示す。四人の若い女性が四人の中年の女性になり、さらに年を重ねる。髪の色が変わり、姿勢が変わり、互いに寄りかかる仕方が変わる。離れて立つ年もあれば、身を寄せ合う年もある。
固定された並びは、すべてを支える枠である。ヘザーがいつも左に、ローリーがいつも右にいるから、ひとりひとりの姉妹を、一行の文を読むように歳月を追って辿ることができる。枠が固定されていることで、変化が見え、ほとんど手に触れられるものになる。
ニクソンはキャプションを添えない。どの年に葬儀があり、どの年に結婚式があり、どの年に病があったのか、私たちは知らない。写真が差し出すのは顔と身体だけ。残りは見る者が推し量る。そしてたいてい、自分自身について推し量る。
過ぎゆく時間へのこの関心は、このシリーズに限らない。風景や農村の貧困の情景から、ボストンの街の暮らしまで、ニクソンの仕事全体を貫いている。
美術館のなかで
ニューヨーク近代美術館(The Museum of Modern Art)はこのシリーズの多くの写真を所蔵し、四十年目を迎えたときに「Forty Years of The Brown Sisters」を開催した。美術館はまた、ピーター・ガラッシ(Peter Galassi)のあとがきを付した「The Brown Sisters: Thirty Three Years」を刊行している。
2017年12月13日から2018年4月22日まで、ICA Boston は「Nicholas Nixon: Persistence of Vision」を開催し、「The Brown Sisters」の全作品を、同じ年月に彼が撮ったほかの写真とともに展示した。
このシリーズは、河原温の「I Got Up」の絵葉書に近い。小さな行為を、ひとつの生の記録になるほど長く繰り返すこと。違いは、ニクソンが時間を数字で記録しないことだ。彼は顔で記録する。