エッセイ · 嗅覚アート
オトボン・ンカンガ「Beacon: Prominence」
Otobong Nkanga. Beacon: Prominence.
火は過ぎる。匂いは残る。
「We Come from Fire and Return to Fire」2024年(展示風景)。© 作家。提供:Lisson Gallery, London · ArtReview
三つのビーコン
2024年の夏、ロンドンの Lisson Gallery は、ナイジェリアのアーティスト、オトボン・ンカンガ(Otobong Nkanga)の「We Come from Fire and Return to Fire」を開いた。同ギャラリーでの初個展で、会期は5月24日から8月3日まで。
部屋には「Beacon」と題された三つの作品が置かれていた。いずれも2024年の作。どれも焦げたヤシの幹に似た背の高い陶の形。表面は黒く、ひび割れ、炭化している。遠くからは、大火のあとに森に残ったもののように見える。
ビーコン(狼煙)とは、遠くへ合図を送るために高所で焚かれる火。ここでは火はもう消えている。残っているのは幹で、メッセージは焼け跡そのものから読みとらなければならない。
それぞれの形の足もとに、ンカンガは鋼と陶の器を置いた。「Beacon: Prominence」では、器にラベンダーをはじめとする乾燥した薬草が入っている。
根もとの供物
その置き方は供物を思わせる。器は台座の上にない。床に、焼けた幹の近くに置かれている。思い出すため、あるいは願うために持ってこられた何かのように。
遠くから、訪れる者に見えるのは黒い塊と、いくつかの小さな物だけ。近づいてはじめて匂いが届く。乾燥したラベンダーは強くない。部屋を満たしはしない。根もとのまわりの小さな円の中にとどまる。
ラベンダーやほかの薬草は、多くの文化で古くから摘まれ、乾かされ、蓄えられてきた。それらは体の手当てに、家に、リネンの戸棚に属する。焼けた木の足もとにそれらを置くことで、ンカンガは二つのものを並べる。破壊と手当て。
その関係を説明する文章はない。作品は訪れる者を黒い形と乾いた葉の匂いのあいだに立たせ、ひとりでそれらを結びつけさせる。
土、鉱物、火
ほかの作品が物語を広げる。表題作は、燻した楽焼のビーズを通した手編みのロープ。天井から、灰色がかった青、紫、火山の赤で手織りされたタフテッドラグの上へと垂れ下がる。ラグの上にはシュンガイトやトルマリンといった石が置かれている。
「Sunburst」は3メートルを超える織物。太陽か原子のような円と、風景を横切る人のいない道のように枝分かれする線。地下には赤い光の下で、音の作品「Wetin You Go Do? Oya Na」がある。ナイジェリア・ピジン語で話すいくつもの声。題名の意味は、あなたはどうするのか。時は来た。
ンカンガは長く、土地と、人がそこから取り出すもの、鉱物、石、金属を扱ってきた。作品はしばしば、その採掘の代償を問う。土地にとって、そしてそこに暮らす人々にとって。この展示で、問いはもうひとつの素材を得る。火。日々の暮らしにますます迫る山火事。
音は彼女の実践のもうひとつの糸。その声たちとより長く過ごすなら、「Wetin You Go Do?」がその作品。
灰の中の小さな匂い
「Beacon: Prominence」を忘れがたくしているのはスケール。陶の形は大きく、黒く、重い。匂いは小さく、軽く、近い。一方には、部屋の向こうからも見える災厄。もう一方には、身をかがめる者だけが気づくもの。
作品は、植物が森を救うとは約束しない。ただそこに置くだけ。希望として、追悼として、あるいは焼けた土地にもまた芽吹く力があるという知らせとして読むこともできる。
ンカンガはひとつの読み方を選ばない。匂いに役目を果たさせる。静かに訪れる者の中に入り、黒い幹の像より長くとどまること。