エッセイ · 嗅覚アート
ペーター・デ・クーペレ「The Smell of a Stranger」
Peter de Cupere. The Smell of a Stranger.
見慣れた植物。見知らぬ人の匂い。
© Peter de Cupere · Peter de Cupere(作家公式サイト)
9つの植物、自分のものではない9つの匂い
2015年、第12回ハバナ・ビエンナーレで、ベルギーの作家 Peter de Cupere は The Smell of a Stranger を発表した。会期は5月22日から6月22日まで。ビエンナーレの芸術監督兼チーフキュレーターは Jorge Fernández、このプロジェクトのキュレーターは Sara Alonso Gómez だった。
作品は、キューバ原産の9つの植物と花で構成されていた。それぞれに、本来のものではない匂いが与えられた。作家はこの工程を scent engineering(香りのエンジニアリング)と呼んだ。
選ばれた匂いは、花の匂いではなかった。それは人を指し示していた。精液、膣、恐怖の冷や汗、お金。火薬、汚れた空気、死、血もあった。そして冗談に近いものがひとつ。ハンバーガー、西洋文化への目くばせ。
植物は、観客が触れられないよう柵のついたプランターに置かれた。小さな扇風機と大きな香りのディフューザーが、匂いを外へ押し出した。作家によれば、これらはキューバに豊富な太陽光で動いていた。匂いはスポンジ状の構造に保持され、一日を通して安定するようにされていた。
国境についての冗談
De Cupere がキューバを選んだのには、明確な理由があった。ビエンナーレの2年前、彼はキュレーターの Sara Alonso Gómez、Bruno Devos、そしてキューバ軍の香りの専門家とともに森へ入り、新しい匂いを探した。島の自然がまだいかに手つかずであるかに、彼は心を打たれた。
作品の準備に戻ったとき、彼は小さいがはっきりした変化を目にした。最初の訪問時、ハバナの店の棚には Coca Cola や M&M's といったブランドはなかった。いまはそれがあり、陽の光に輝いていた。アメリカとの国境が開かれつつあった。西洋文化が入ってきて、資本もともに入ってきた。
作家はこの作品を、その開放についての小さな冗談だと語った。タイトルが問いを示している。よそ者とは誰か。外からやって来る人か、それとも見慣れた場所に現れる新しい匂いか。キューバは、文化と自然のアイデンティティを保てるのか。
異国の匂いをもつ見慣れた植物は、その問いの最も凝縮された像だ。キューバの人々は、自分たちの植物を見る。鼻は、別の何かを認識する。
匂いが組み立てられるとき
作品の後半は、先を見ている。De Cupere は、ある植物の匂いを別の植物に移せる世界を想像する。彼の例では、カボチャに最も高価な花の香りであるフランスのジャスミンの匂いを与えれば、その匂いは希少ではなくなる。アレルギーのある人が楽しめるよう、匂いを取り除いた花も想像する。
だが彼は、明るい面だけを描くわけではない。作品は代償を問う。匂いが変わったら、昆虫はどうやって受粉を担うのか。植物に手を加えることは、自然と社会に何を残すのか。観客は血と火薬の匂いのする植物の前に立ち、両方の側面を量らなければならない。
作家の説明には、正直な細部がある。こうして処理された植物はまだ長く生かしておくことができず、匂いは時間とともに弱まった。ビエンナーレの初めには強く、終わりには薄く。作品は、自らの提案の限界を記録している。
その細部が、The Smell of a Stranger を予言よりも生に近づける。与えられた匂いは薄れる。植物はキューバの植物のままだ。異国の匂いはやって来て、しばらくとどまり、やがて引いていく。残るのはひとつの問い。匂いが組み立てられるようになったとき、私たちはどこまで、匂いが場所や人を教えてくれると信じられるのか。