エッセイ · 嗅覚アート
ポープ・L「Claim (Whitney Version)」
Pope.L. Claim (Whitney Version).
肉でできているなら、数にも匂いがある。
撮影:Maximilíano Durón/ARTnews · ARTnews
ピンクの部屋
2017年3月、ニューヨークのホイットニー美術館でホイットニー・ビエンナーレが開幕した。ある階に、外はピンク、内はミントグリーンの四角い部屋が立っていた。来場者はそのまわりを歩き、それからひとつの独立したギャラリーのように中へ入ることができた。
壁は内も外も、床から天井まで均一な格子で覆われていた。ひとマスごとに一枚のボローニャソーセージ。アメリカの昼食でおなじみの、安いコールドカットである。全部で2,755枚。
Pope.L は一枚ごとに、無作為に撮影されたニューヨーカーの小さなコピーの肖像を貼り付けた。作品名は「Claim (Whitney Version)」。
壁のひとつには作家のテキストが掛けられ、その横に安いフルーツワイン MD 20/20 の瓶があった。近くには、脂を流して泣く肉片を描いた短い詩があった。
わざと歪めた数
2,755という数は恣意的ではない。添えられたテキストによれば、枚数はニューヨークの人口に占めるユダヤ人の割合にもとづいている。肉の上の顔は、彼らを表しているとされる。
だが同じテキストは、その方法がわざと少しずれていることも認めている。写真の人々は無作為に選ばれた。彼らがユダヤ人かどうかは誰も知らない。写真にはそれが言えない。
これが「Claim」の核心である。作品は科学的に見える体系を組み立てる。均一な格子、正確な数字、ひとマスにひとり。そしてその体系がいかに空虚かを示す。顔にアイデンティティを割り当てること、人の集団を割合に変えることは、前提の上に築かれた計算である。
題名は、主張することと、所有を申し立てることの両方を意味する。人がどの集団に属するかを宣言する権利は誰にあるのか。誰が何を主張しているのか。
乾く肉、移ろう匂い
ボローニャソーセージは会期中ずっと壁にあった。時とともに肉片は乾き、歪み、縮んだ。脂と汁は下に置かれた受け皿に滴った。
作家は、肉は腐っているのではなく、空気のなかで熟成されているのだと強調した。英語では、肉をこうして保存することを表す語が、傷や病を治すことを表す語でもある。長くもつようにされる一枚の肉と、治されるのを待つ社会の傷。Pope.L はその二つの意味を、答えを出さないまま並べておいた。
匂いは、作品のなかで誰も避けられない部分である。当時の報道は、ピンクの部屋の中とまわりに強い臭気があったと記した。来場者はテキストを読み飛ばし、顔を無視することもできた。嗅がずにいることはできなかった。
肉が反り返るにつれて、写真も反り返った。顔は歪み、読み取りにくくなった。体系がひとりひとりに留めた識別の印は、素材そのものによってゆっくりと消されていった。
居心地の悪い物の作家
Pope.L は本名ウィリアム・Pope.L(William Pope.L)。アメリカの芸術家で、ニューヨークの路上を四つん這いで進むクロール・パフォーマンスで知られる。彼はしばしば、安く、傷みやすく、居心地の悪い素材を使った。多くは日常の食べ物である。それらは階級、人種、身体の意味を帯びている。
「Claim (Whitney Version)」は、ホイットニーがビエンナーレの作家ひとりに贈る2017年のバックスバウム賞をもたらした。彼の別の作品については、「The Beginning of the World」についてのエッセイを。
「Claim」で、Pope.L はスローガンなしに語る。ありふれた物、一枚のコールドカットに、その性質のままふるまわせる。乾き、滴り、匂う。見る人はその匂いから、ひとりで問いへとたどり着く。