エッセイ · 嗅覚アート
セーヴル、ジャン=クロード・デュプレシ「Pair of Vases (Pots Pourris à Bobèches)」
Sèvres, Jean-Claude Duplessis. Pair of Vases (Pots Pourris à Bobèches).
鼻が、磁器の花に命を吹き込む。
ジャン=クロード・デュプレシ「Pair of Vases (Pots Pourris à Bobèches)」。The Art Institute of Chicago、Joseph Maier and Arthur Lewis Liebman Memorial:Kenneth J. Maier, M.D. 寄贈 · パブリックドメイン
燭台であり、部屋の香りづけであり
この対の壺は、1759年ごろフランスのセーヴル磁器製作所でつくられた。軟質磁器、多色エナメル、金彩。ふたつの大きさは近い。一方は高さ24.2 cm、もう一方は24.8 cm、奥行きはどちらも8.9 cm。シカゴ美術館の所蔵である。
名前がほとんどを語っている。ポ・プリ(pot pourri)は香る乾いた花を入れるもの。ボベッシュ(bobèche)は燭台の蝋受け皿。どちらの壺も、燭台であり、部屋に香りをつける道具でもある。
シカゴ美術館によれば、それぞれの壺の台座にはポプリか、焚いて香らせる錠剤(パスティーユ)が置かれた。匂いは側面に沿った精緻な透かし彫りと、燭台のあいだにある球根形の突起から漏れ出た。それぞれの壺の頂には磁器の花がのっている。
そして、これが美術館の指摘する点だ。立ちのぼる香りが、磁器の花を生きているように見せた。
デザイナーと絵付け師
形をデザインしたのはジャン・クロード・デュプレシ。およそ1695年から1774年まで生きた彫刻家で、長年にわたりヴァンセンヌ、のちにセーヴルで、製作所の多くの壺のモデルをかたちづくった。この対の絵付けは、アンドレ・ヴァンサン・ヴィエイヤール(André Vincent Vieillard)によるものとされる。1717年から1790年まで生き、1752年から1790年まで製作所で働いた。
製作所は1740年にヴァンセンヌで創設され、のちにパリ近郊のセーヴルへ移った。この対は、ジョゼフ・マイヤー(Joseph Maier)とアーサー・ルイス・リーブマン(Arthur Lewis Liebman)を記念して、ケネス・J・マイヤー(Kenneth J. Maier)からの寄贈としてシカゴに来た。18世紀フランスの部屋からアメリカの美術館へ。200年以上を旅してきた。もとの匂いはついてこなかった。いまケースのなかで台座は空で、蝋燭に火はなく、磁器の花はふたたびただの磁器である。
ポ・プリ・ア・ボベッシュはひとつのモデルであって、一点ものの作品ではない。ニューヨークのメトロポリタン美術館は同じ型の一点を所蔵する。1759年から1760年ごろのもので、やはりデュプレシに結びつけられるが、絵付けは別の手による。J・ポール・ゲティ美術館は、ピンクと緑の地に17世紀の絵画にもとづく場面を描いた一対を所蔵する。ひとつの形に、対ごとに違う絵の層。
版が違っても変わらないのは構造だ。上に蝋燭、下に匂い、頂に磁器の花、そして匂いがのぼるための透かし。
ひとつの物に、光と匂い
18世紀の夜の部屋にはふたつのものが要った。光と、心地よい匂い。ふつうそれは別々の物だった。台の上の蝋燭。部屋の隅の乾いた花の器。セーヴルの対は、そのふたつを一か所に集める。
結果は便利さ以上のものだ。ひとつの場面をつくる。蝋燭の光が磁器の花に落ち、エナメルを明るくする。同じ瞬間、匂いが台座から透かしを通ってのぼる。近くに座る人は、照らされた花を見て、花の匂いを嗅ぐ。その場面に本物の花はひとつもない。
これは、それを表す言葉が生まれる前の、感覚のためのデザインである。デュプレシはただ見事な形をつくったのではない。見る人を心地よく欺く、小さな機械をつくった。目が像を差し出し、鼻が証拠を差し出し、頭がひとりでに、花は咲いていると結論する。
ポ・プリ・ア・ボベッシュが記憶に値するのは、香りが語り手の仕事をするところを見せるからだ。言葉は要らない。像の隣に立ち、ふたつが一緒のものだと人に信じさせるだけでいい。同じ製作所とデザイナーによる、絵で鼻を導く別の壺については、ポ・プリ・ポンパドゥールを。