エッセイ · 嗅覚アート
シセル・トラース、クリスティーナ・アガパキス「Selfmade」
Sissel Tolaas, Christina Agapakis. Selfmade.
体はチーズに署名する。
11個のチーズ、11人
2013年、ダブリン大学トリニティ・カレッジのサイエンス・ギャラリーで、展覧会「Grow Your Own: Life After Nature」がチーズの列を見せた。一見、ふつうのチーズ売り場のよう。丸く、皮は黄ばみ、なめらかなもの、カビの斑点があるもの。違いは、ひとつひとつに人の名前が付いていたこと。
作品の名は「Selfmade」。匂いのアーティスト、シセル・トラース(Sissel Tolaas)と生物学者クリスティーナ・アガパキス(Christina Agapakis)による。二人は11個のチーズを育てた。どれも人の体から採った細菌から始まっている。Hyperallergic によれば、記事が書かれた時点で展示されていたのは4個。
提供者と採取部位は明かされている。アーティスト、オラファー・エリアソン(Olafur Eliasson)の涙。キュレーター、ハンス・ウルリッヒ・オブリスト(Hans Ulrich Obrist)の鼻。作家マイケル・ポーラン(Michael Pollan)のへそ。ベン・ウルフ(Ben Wolfe)の足の指。
試料は綿棒で採られ、牛乳に移された。そこから先は、細菌と熟成の時間の仕事。チーズと並んで、提供者へのインタビューを収めた短い映像が流れた。
牛乳で育てた肖像
チーズづくりは、いつも微生物との共同作業だった。チーズ職人は牛乳と温度と湿度を整え、あとは細菌とカビに牛乳を別のものへ変えさせる。チーズの匂いの多くは、それらの生き物が食べ、排出する匂い。
人の皮膚も同じ種類の環境。足の指のあいだ、へそ、鼻のまわりには、それぞれ異なる細菌の群れが住み、一人ひとりの体臭をかたちづくる。人は昔から足をある種のチーズになぞらえてきた。研究室の同意がなくても。
トラースとアガパキスは、二つの環境をつないだ。二人はチーズを微生物のスケッチ、培養された食べ物による肖像と呼んだ。プロジェクトによれば、どのチーズも試料をくれた人の匂いがした。
チーズは原理的には食べられたが、来場者のためのものではなかった。見られ、嗅がれるためにそこにあった。肖像が見られるためにそこにあるように。
提供者は無作為に選ばれたのではない。プロジェクトは彼らを、微生物、チーズ、食べ物、あるいは体とその環境について興味深い物語を持つ人々と説明する。綿棒の一本一本が、小さな伝記を運んでいた。
二つの意味での culture
英語の culture は、暮らし方という意味と、培地で育てた微生物の群れという意味を併せ持つ。「Selfmade」はちょうど二つの意味が出会う場所にある。プロジェクトは自らを、人の文化と微生物の培養が交わる地点への探究と説明する。
トラースにとって、これは体臭と都市の匂いをめぐる長年の仕事の続きだった。彼女はそれまでに都市の匂い、汗の匂い、恐れの匂いを集めてきた。「Selfmade」では、すでにある匂いを集めたのではない。別の素材のなかで、匂いをもう一度育てさせた。
合成生物学に携わるアガパキスにとって、このプロジェクトは私たちの細菌の見方を問う。私たちは洗い、消毒し、デオドラントを吹きつける。細菌がいつもよそ者であるかのように。けれどチーズもパンもワインも漬物も、みな細菌の仕事。清潔と不潔の境目は、知っている微生物と知らない微生物の境目だとわかる。
「Selfmade」が心に残るのは、嫌悪を目に見えるものにするから。熟したチーズを嗅ぐのを嫌がる人はいない。そのチーズが見知らぬ人の足の指から始まったと知るのを嫌がる人は多い。匂いは同じまま。変わるのは私たちの知識だけで、それとともに鼻も変わる。