エッセイ · 現代アート

タリン・サイモン「Paperwork and the Will of Capital」

Taryn Simon. Paperwork and the Will of Capital.

署名のあいだに花が立っていた。そして萎れた。

タリン・サイモン「Paperwork and the Will of Capital」。マホガニーの額に入った花束のカラー写真と、条約についてのキャプション


報道写真のなかの花束

プロジェクトは写真から始まる。芸術写真ではなく、調印の場で撮られた報道写真や公式写真。協定、宣言、覚書、条約。記録されるために演出された合意の瞬間。それを数多く見ていくうちに、タリン・サイモンは繰り返し現れる細部に気づいた。ほとんど必ず、花があった。

机の上、二人の署名者のあいだの花。後ろの、旗の横の花。主役になることはないが、いつもそこにあり、権力の舞台装置の一部になっている。サイモンは、まさにその花束を再現することにした。

選ばれた調印は、時代も場所もさまざまだ。1968年8月3日のブラチスラバ宣言。2006年5月30日の国際イスラム貿易金融公社設立協定。2014年9月26日のカンボジアとオーストラリアの覚書。協定ひとつにつき写真一枚。

文書の中身は政治から金融まで大きく異なる。それなのに写真のなかでは奇妙なほど似ている。スーツ姿の数人、机、数本のペン、そして花束。その同じさが、内容と同じくらい儀式が重要であることを示している。

4,000点の標本と一人の植物学者

花束を再現するため、サイモンはオランダのアールスメールから4,000点を超える花と植物の標本を輸入した。世界最大の花市場で、毎日およそ二千万本の花が出入りする。ニューヨーク植物園の植物学者ダニエル・アサとともに、元の写真の一種ずつを同定した。

各作品の文章は、花がどこから来たかを記録している。コロンビアのカーネーション。エクアドルのハイブリッドティーローズ。オランダのガーベラとアジサイ。タイのデンドロビウム。調印台の花束は、世界貿易の小さな地図だった。

写真は36点。どれも再現された花束を写し、植物標本用の台紙に文章とともにアーカイバル・インクジェットで刷られている。額はマホガニーで、役員室の家具を思わせる。高さはそれぞれ約216 cm。大きく明るい写真は、記録というよりオランダの花の静物画に近い。

乾かし、縫い、コンクリートに封じる

プロジェクトの第二部は彫刻。サイモンにとって初めての媒体だった。36の花束の標本を乾かし、押し、植物標本の台紙に縫いつける。植物園が植物の記録を保存するやり方だ。36枚の標本一式を、顔料入りコンクリートと鋼の留め具でできたプレスにひと組ずつ収めた。プレスは全部で12台。

像は簡素だ。部屋でいちばん儚い花を、いちばん重く長く残るコンクリートが押さえる。条約は破られ、忘れられ、別の条約に取って代わられる。標本は押されたまま、いつか誰かが開けるのを待っている。

「Paperwork and the Will of Capital」は2015年、第56回ヴェネツィア・ビエンナーレで初めて展示された。2016年にはガゴシアンが、ニューヨークの 555 West 24th Street で2月18日から3月26日まで展示した。Hatje Cantz とガゴシアンが刊行したカタログには、ダニエル・アサの植物解説とハナン・アル=シェイクの短編が収められている。

「An American Index of the Hidden and Unfamiliar」と同じく、サイモンは像を文章の横に置く。けれどここで隠されているものは、鍵のかかった扉の向こうにはない。画面の真ん中、机の上、皆の目の前にある。ただ誰も見ていない。