エッセイ · 現代アート
草間彌生「Infinity Mirrored Room: The Souls of Millions of Light Years Away」。
Yayoi Kusama. Infinity Mirrored Room: The Souls of Millions of Light Years Away.
無限は四十五秒続く。
箱のかたちの部屋
外から見ると、作品は大きく簡素な箱。ロサンゼルスの The Broad は、その大きさを高さ約2.9メートル、各辺約4.2メートルとしている。扉がひとつ。訪れる人は列に並び、順番を待つ。
扉が閉まると、すべてが変わる。四方の壁と天井は鏡。足もとには浅い水が張られ、平らで暗い。天井からは高さの異なる数百の色つき LED が下がり、リズムにあわせて灯り、薄れる。鏡はそれをあらゆる方向へ増やす。水は下へ増やす。
数秒のうちに部屋は消える。残るのは光の粒だけ。視界の果てまで続き、地面のない空のよう。
The Broad が記録する素材の一覧はとても乾いている。木、金属、ガラスの鏡、プラスチック、アクリル板、ゴム、LED 照明システム、アクリル球、水。こうしたありふれた物から、草間は完全な錯覚を組み立てる。
四十五秒
作品は2013年につくられ、同年末、ニューヨークのデイヴィッド・ツヴィルナー(David Zwirner)での草間の展覧会「I Who Have Arrived in Heaven」で初めて展示された。2014年初め、The Broad がコレクションに加えた。以来、その小さな扉の前にはたいてい列があり、ときにとても長い。多くの人が、中にいられる時間よりはるかに長く待つ。
The Broad は一回の鑑賞を約45秒としている。美術館によれば、この数字はアーティストのスタジオと相談して決められた。
四十五秒はとても短い。けれど部屋の中では、時間は違うふうに過ぎる。時計はなく、目を休める角もなく、明滅する光だけ。時間が引き伸ばされるように感じる。やがて扉が開き、ふつうの光が流れ込み、訪れる人は縁と床と非常口の表示のある部屋へ戻る。
制限は作品を小さくしない。より鮮明にする。無限は、終わりの隣にあってはじめて意味をもつ。
光の粒へ溶けていく自己
草間はごく早くから反復とともに制作した。水玉、網、あらゆる面を覆う増殖する形。彼女はしばしば自己消滅について語った。自己を果てのない場へ溶かすこと。
鏡の部屋は、その考えのもっとも明快なかたち。中の人は光のあいだで小さくなりながら、何百回も映る自分を見る。もはや作品の前に立つ鑑賞者ではない。作品の一部になる。網の中のひとつの点。
タイトルも同じ方向を指す。The Souls of Millions of Light Years Away。何百万光年彼方の魂たち。ひとつひとつの光は星かもしれず、人かもしれない。とても遠く、同時にとても近い。
ひとりぶんの宇宙
今日、草間の鏡の部屋は多くの美術館と数えきれない写真の中にある。人々は光のあいだの自分を撮る。けれど写真は肝心なものを残せない。目がどこにも止まれない空間に立っている、という感覚を。
草間は、「Filled with the Brilliance of Life」のように、別の光と素材で別の鏡の部屋もつくった。どれも同じ問いの変奏。限りのない空間の中で、人はどこに立つのか。The Broad の部屋は簡素なものを保っている。小さな箱、水面、光の粒、そして自分がどこにいるかを忘れるのに足りるだけの、短い時間。