エッセイ · 嗅覚アート
アンドリュー・オブライエン「Stringer's Ridge」
Andrew O'Brien. Stringer's Ridge.
花を摘み取るたびに、一回の露光。
Institute for Art and Olfaction · Institute for Art and Olfaction
地平線のない森
Stringer's Ridge は、スイカズラがほとんどすべてを覆ったアメリカの森林地帯である。最も多い二種は、スイカズラ(Lonicera japonica)とアムール・ハニーサックル(Lonicera maackii)。どちらも19世紀初めにアメリカへ持ち込まれ、観賞用として、また土壌の浸食を防ぐために植えられた。やがてあらゆる計画を越えて広がり、侵略的な植物になった。
アンドリュー・オブライエン(Andrew O'Brien)は、物理的な空間、とくに風景と建造環境がどう組み立てられているかを扱うアーティストである。実験的な出版物、写真、映像、インスタレーションをつくる。2021年に Tennessee Arts Commission の Individual Artist Fellow となり、2014年から2024年までテネシー大学チャタヌーガ校で教え、現在はテキサス州オースティンに住む。
展覧会「Stringer's Ridge」は、2025年2月8日から3月7日まで、ロサンゼルスの IAO Gallery で開かれた。問いは単純で、難しい。地平線がないほど密で、枠の中にじっと収まろうとしない風景を、どう見るか。
現像としてのアンフルラージュ
スイカズラの匂いを留めるために、オブライエンはenfleurage(アンフルラージュ、冷浸法)を用いた。専用の枠をつくり、半固形の脂を塗る。その上に摘みたての花を並べる。脂が芳香成分を吸い込む。役目を終えた花を取り除き、新しい花に替える。
オブライエンは、花を替える一回一回を露光と呼ぶ。この見方では、脂は感光したフィルムである。待ち、触れたものを留める。
この比較は、きれいな喩え以上のものだ。アナログ写真の核心に触れている。写真とは、レンズの前にあったものの物理的な痕跡である。本物の光が本物のフィルムに落ちた。脂の枠の匂いも同じ。模した匂いではない。そこに日ごとに置かれた、まさにその花の匂い。
違いがひとつある。写真は一瞬を留める。脂の枠は、重なり合う瞬間の連なりを留める。何回もの花、何度もの朝。スナップショットよりも多重露光に近い。
ギャラリーで
インスタレーションは三種類の物を集める。スイカズラの蔓を巻かれ、スイカズラの芳香を帯びた人工の木の幹。集めた匂いを抱える、アンフルラージュの枠。そして測量と道しるべの印を重ねた、林床の写真。
幹は偽物だ。蔓と匂いは本物の森から来ている。このずれは意図されたものである。展覧会は自らを、複製の限界、抽出の論理、そして自然を理解する西洋の習慣についての研究と説明する。測り、切り分け、部屋へ持ち帰るという習慣。
測量の印がそれをはっきりさせる。土地を支配しようとする人の言葉だ。座標、矢印、線。厚い葉の壁に重ねられると、無力に見える。森は地図では答えない。
すべてを知らないことの価値
「Stringer's Ridge」は森を解こうとしない。不確定さに、すべては知りえない複雑さに価値を見いだす。美しい視点と明快な地平線を組み立てがちな風景芸術では、めずらしい選択だ。
匂いはこの選択に合う。匂いには枠がない。前景も背景もない。歩く人を林床が包むように、あらゆる方向から同時にやってくる。
このやり方は、痕跡から花の匂いを建て直したもうひとつの作品を思い出させる。アレクサンドラ・デイジー・ギンズバーグ(Alexandra Daisy Ginsberg)のResurrecting the Sublime。あちらでは花は絶滅していた。こちらでは多すぎる。ひとつの問いの両極。人は風景に何を残し、風景は私たちの鼻に何を残すのか。