エッセイ · 嗅覚アート
作者不詳、ヨーロッパ「ポマンダーとヴィネグレット」
Unknown maker, Europe. Pomander and vinaigrette.
六つの室、六つの香り。どれも互いに触れさせない。
© Victoria and Albert Museum, London; Misses Dagmar and Gladys Farrant 寄贈(Arthur Maud Loscombe Wallis を偲んで) · Victoria and Albert Museum (V&A)
六つの室をもつ球
この物は脚から頂の飾りまで6.7 cm。銀と金めっきの銀でできており、花とアラベスクが彫られ、頂には竜の形をした吊り輪がつく。
飾りのつまみを回すと、六つの区画が中央の軸のまわりで外へ開く。花びらのように。区画はそれぞれ独立した室で、吊り輪に近い上部に1から6の番号がある。軸にも対応する1から6の番号があり、渦巻く葉文様が彫られ、金めっきされている。
室はそれぞれ、もとは引き蓋で閉じられていた。残るのは二枚。蓋にも番号があり、それぞれに彫られた巻物がある。空白のまま、中にしまわれる物質の名を待っている。
ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館は、これを1600年から1650年のあいだに西ヨーロッパで作られたもの、作者不詳と記録している。アーサー・モード・ロスコム・ウォリス(Arthur Maud Loscombe Wallis)を偲んで、ダグマー・ファラントとグラディス・ファラント(Dagmar and Gladys Farrant)の姉妹から寄贈された。
龍涎香のりんご
英語の pomander は、ラテン語の pomum de ambre、龍涎香のりんごに由来する。博物館によれば、イングランドでは1490年代から使われていた。ポマンダーとは、金、銀、象牙、木のケースに入れた芳香物質の調合物で、首や腰に下げて身につけた。
当時の人々は、それを持ち歩けば病から身を守れると信じていた。病は汚れた空気を伝わると考えた時代の信念だ。香りは心地よいだけではなかった。体と街のあいだの薄い壁だった。その習慣はさらに古い。博物館によれば、古代ローマの人々は小さな穴のあいた箱に芳香の調合物を入れて持ち歩いた。
香辛料はそれぞれ固有の目的を割り当てられていたので、分けておく必要があった。だから六つの室。博物館によれば、この種のポマンダーでは区画に中身の名が彫られた。ローズマリー、シナモン、クローブ、ナツメグ、龍涎香。
彫られた花と竜は、博物館の読みでは、香りと、材料に託された力の両方を呼び起こす。これほど多くの継ぎ目と室をもつ意匠には、きわめて熟練した銀細工師が必要だった。
酢を入れた台座
下半分は別の物だ。台座は球からねじって外れ、それ自体も二つに開く。底面は金めっきされ、透かし穴がある。これがヴィネグレット。
博物館によれば、かつてはバルサム、あるいはミント、カンファー、クローブ、ラベンダーの油を酢と混ぜて染み込ませた小さな海綿が入っていた。鋭い匂いが穴から抜けた。ヴィネグレットという名は、その酢(vinegar)から来ている。
つまり高さ7センチにも満たない物が、香りをしまう二つの方法を抱えている。上には、番号と蓋のある室に乾いた香辛料。下には、湿って鋭く、すばやく立ちのぼる、気つけのためのもの。
このポマンダーは2015年、グリニッジの国立海洋博物館で開かれたサミュエル・ピープス展の図録に、ロンドンのペストの物語とともに掲載された。宝飾品であり、同時に、空気のなかの恐れとともに生きる方法でもある。
別のエッセイで Penta は、1350年ごろのりんごの形をしたイタリアのポマンダーを読む。区画は四つだけで、内側には恋の物語が彫られている。並べると二つは、身につける香りの意味が三世紀のあいだにどう変わったかを示す。約束から、盾へ。