エッセイ · 嗅覚アート

ドナ・ワンカ(Donna Huanca)「CUEVA DE COPAL」

Donna Huanca. CUEVA DE COPAL.

身体は不在。その匂いは不在ではない。

アルノルフィーニでのドナ・ワンカ「CUEVA DE COPAL」:白い砂、大きな絵画、鏡の前の彫刻が置かれた部屋

撮影:Lisa Whiting Photography。提供:Arnolfini, Bristol · ArtReview



青いカーテンを抜けて

「CUEVA DE COPAL」への入口は、鮮やかな青のビニールの帯でできたカーテン。その奥に細い通路。そして部屋が開ける。

床は白い砂に覆われている。骨のように白い。砂が、部屋の本当のかたちを明かす。三角形。入口と向き合う奥には、記念碑的な大きさの絵画が四枚掛けられ、空間全体の焦点として置かれている。「CUEVA DE COPAL #1」から「#4」、いずれも2021年、油彩と砂。

音が部屋を満たす。はねる水、過ぎる風、鳥の声。鳥はいない。水もない。音だけが、見えないどこかから届く。まるで洞窟が外の小川のそばにあるかのように。

そして匂いがある。ドナ・ワンカ自身がつくった木の香りが、部屋に広がる。それはコパルを思わせる。中南米の多くの先住民文化で、清めの儀式に焚かれる木の樹脂。タイトルは「コパルの洞窟」と訳せる。

絵の具の下の身体

ワンカはボリビア系アメリカ人の作家。以前の多くのインスタレーションでは、身体を塗ったモデルを空間に招き入れ、訪れた人々のあいだに立たせたり、ゆっくり動かせたりした。生きた身体は、絵画や彫刻と同じく作品の一部だった。

「CUEVA DE COPAL」はブリストルのアルノルフィーニに設置され、2022年5月末まで展示された。パンデミックの制限のため、今回はパフォーマーがいなかった。部屋に人はいなかった。

それでも身体は完全には消えなかった。四枚の大きな絵画には、モデルの身体の写真の痕跡が、天然顔料の層の下に埋まっている。近づくと、肩の曲線、肌の一片が見え、また見失う。絵画は身体を描かない。埋める。

部屋には具象の彫刻も二体立つ。「Vipassana Journal (Ripped Torso)」と「Arbol de Sapito (Sapito Tree)」、いずれも2021年。その背後には大きな鏡。訪れた人は彫刻を見て、その向こうに、砂の上に立つ自分を見る。

感覚のための洞窟

洞窟は人間の最初の住まいであり、暗闇で初期の儀式が行われた場所でもある。ワンカは石で洞窟をつくらない。足もとの砂、耳に届く音、空気の中の匂いでつくる。目は、呼び出される感覚のひとつにすぎない。

ここで匂いには、はっきりした役目がある。作品が参照する清めの儀式では、コパルの煙が境を示す。聖なる空間に入り、日常を離れること。ワンカは本物のコパルを焚かない。それを思わせる木の香りをつくる。儀式を何も知らない人でも、この部屋がいま通ってきた通路とは違うと感じとれる。

匂いで空間の状態を変えることは、現代アートではめずらしくない。エルネスト・ネトの「the body that carries me」のやわらかなインスタレーションも、目だけでなく体ごと、訪れた人を招き入れる。ワンカを際立たせるのは不在。演じる者のいない儀式を上演し、その場所に木の香りを立たせる。

「CUEVA DE COPAL」を出る人は、靴の下に少しの砂を、服に木のかすかな痕跡を持ち帰る。パフォーマーはいなかった。それでも訪れた誰もが、砂に足跡を残した。部屋は、通り過ぎる人々とともに毎日変わった。作品は自らの観客を記録した。