エッセイ · 嗅覚アート

「Fleeting. Scents in Colour.」展

Fleeting. Scents in Colour.

絵は美しい。街はそうは匂わなかった。

ウィレム・ファン・ミーリス《食料品店》。売り手と客、並べられた品々のある店

ウィレム・ファン・ミーリス《食料品店》(1717)。マウリッツハイス美術館、デン・ハーグ · Apollo Magazine



絵画の美術館が鼻をひらく

デン・ハーグのマウリッツハイス美術館は、オランダ黄金時代のもっともよく知られた絵画のいくつかを所蔵している。2021年、美術館は17世紀絵画における匂いをテーマにした展覧会「Fleeting, Scents in Colour」をひらいた。会期は2021年8月29日まで。

キュレーターはマウリッツハイス美術館のアリアーネ・ファン・スフテレン(Ariane van Suchtelen)。問いは単純だった。当時のオランダの画家たちは匂いをどう描いたのか。そして当時のオランダの人々は、毎日何を嗅いでいたのか。

展覧会はいくつかの部分に分かれていた。花、食べもの、物を通して、絵のなかに匂いがどう現れるか。過去の匂い。物語における匂いの役割。そして当時、感覚がどう理解されていたか。

絵画のあいだには香りのディスペンサーが立っていた。来場者が押すと、ひと吹きの匂いが出てくる。触れずに使えるよう設計されていた。2021年はパンデミックの年だったから。

食料品店から運河へ

中心となる絵のひとつは、ウィレム・ファン・ミーリスの《食料品店》、1717年の作。一軒の店、積み上げられた品々、売り手と買い手。交易船が運んだ香辛料が、街の家々へ届く場所。

もうひとつは、ヤーコプ・ファン・ロイスダールの《漂白場のあるハールレムの眺め》、1670年代頃の作。手前には、漂白のために白い亜麻布を広げた野、奥には街。広く明るい風景。けれど仕事場でもあった。濡れた布が、来る日も来る日も野ざらしに置かれていた場所。

1620年頃に北ネーデルラントでつくられ、トゥウェンテ国立美術館から貸し出されたポマンダーもあった。人々はこうした香料を詰めた小さな物を持ち歩き、不快な場所を通るときに鼻へ持ち上げた。

そして運河があった。ヤン・ファン・デル・ヘイデンの都市景観では、アムステルダムの運河は穏やかで清潔に見える。マウリッツハイス美術館はそのかたわらに、研究者が想像する同じ運河の匂いを置いた。よどんだ水、ごみ、汚物。来場者は長く見つめなくても理解した。

家に届いた匂いの箱

2021年、オランダの美術館は何か月も閉館していた。マウリッツハイス美術館は、観客に届く別の道を探した。

スポンサーの NN Group とともに、美術館は香りの箱をつくり、申し込んだ人々に郵送した。オンラインのガイドツアーつき。マウリッツハイス美術館はこれを、世界初のインタラクティブな「見て嗅ぐ」ツアーと呼んだ。家で人々は、指示にしたがって小さな小瓶を開け、画面には対応する絵が映し出された。

ここには逆説がある。匂いは、画面越しに送るのがいちばん難しいもの。それなのに美術館が閉ざされたとき、匂いは17世紀の絵が人々の居間へ入っていく道になった。絵は画面で、匂いは郵便で。

匂いと古い絵画を組み合わせた展覧会は、「Fleeting」が最初でも最後でもない。1年後にはマドリードのプラド美術館が、ブリューゲルとルーベンスの1枚の絵から10の匂いを再現した。けれど「Fleeting」には独自のものがあった。美しい匂いだけを差し出したのではない。黄金と呼ばれる時代の暗い側を、来場者に嗅がせた。

タイトルがそれを語っている。Fleeting は、過ぎ去るという意味。17世紀の匂いはとうに消えた。残っているのは色とかたち、そしてそれを呼び戻そうとするいくつかの小瓶。