エッセイ · 嗅覚アート
フランツ・クレイン「嗅覚(Odor)」
Franz Cleyn. Smell (Odor).
嗅覚は、花の枠のなかに座っている。
The Metropolitan Museum of Art、Harris Brisbane Dick Fund、1945(オープンアクセス、パブリックドメイン) · The Metropolitan Museum of Art
細長い帯
紙は高さ10 cmに満たず、幅20 cm。像はフリーズのように横長の帯として彫られている。中央、上端の小さなカルトゥーシュには ODOR の文字。ラテン語で匂いのこと。
その下で、ひとりの女性が石の台座に座っている。花冠をかぶり、膝には花籠。一輪の花を顔の近くへ持ち上げる。まわりでは、花のアーチが庭の門のように弧を描いて立ち上がる。台座の近くには犬が横たわる。
両側には別の世界。葉が大きな渦巻きに巻き、リボンがうねり、翼のある子どもたちが飛び、立ち、よじ登る。右では、そのうちの二人が、装飾柱の上に置かれた花でいっぱいの花瓶へ手を伸ばす。
中央に花、頭に花、籠に花、花瓶に花。メトロポリタン美術館は、図中に薔薇を記録している。この感覚をひとつの物で語らなければならないなら、クレインは花を選ぶ。それも、とてもたくさん。
グロテスク、イタリアの装飾法
「Quinque Sensuum」は、表題紙と5枚の紙からなる連作で、それぞれの感覚が女性像で表される。表題紙は用いた手法を名指している。感覚は、イタリア人がグロテスク(grottesche)と呼ぶ種類の絵で描かれている、と。
グロテスクは、15世紀末にローマで見つかった古代ローマの壁画に想を得ている。当時の人々が洞窟、グロッテ(grotte)と呼んだ、埋もれた部屋のなかで。渦巻く葉、混成の生きもの、壺、垂れ下がる花綱の世界。論理は要らない。重力も要らない。
この手法では、枠は絵と同じくらい重要。クレインは嗅覚の寓意をグロテスクの枠のなかに置き、その枠を匂うもので満たす。枠はただ主題を囲むのではない。主題を両側へ引き伸ばす。
足もとの犬はなじみのある細部。ヨーロッパの多くの寓意で、犬はその鼻ゆえに嗅覚に付き添う。ここで犬はじっと横たわり、ほとんど装飾のなかに溶け込んでいる。
王のためのタペストリー図案家
フランツ・クレインは1582年、北ドイツのロストックに生まれ、1658年にロンドンで亡くなった。経歴の大半はイングランド、ロンドン近郊のモートレイク・タペストリー工房と結びついていた。
モートレイクでクレインは、タペストリーと、その場面を縁取るボーダーの図案を描いた。チャールズ1世のために、五感を主題とするタペストリーの連作の図案も手がけた。
その修業が「Quinque Sensuum」に表れている。大きなタペストリーには、中央の場面と、花や葉や鳥や獣に満ちた深いボーダーがあることが多い。クレインの小さな紙の帯も同じように働く。手のひらの大きさに縮められたタペストリーのボーダーのように。
メトロポリタン美術館の刷りには出版者ロバート・ウォルトン(Robert Walton)の名があり、1655年頃のものとされる。クレインが亡くなる数年前。当時の版画は多くの手を経た。図案家、彫版師、刷り師、売り手。よい像の一揃いは、それを描いた人よりも長く生きることができた。
群れのなかのひとつの感覚
五感は、16世紀と17世紀のヨーロッパの絵画と版画でよく見られる主題だった。嗅覚はたいてい、いくつかの決まった物で見分けられた。花、花瓶、犬。その時代の絵画における香りは、マウリッツハイス美術館がひとつの展覧会をまるごと組み立てられるほど豊かだった。「Fleeting: Scents in Colour」。
クレインは同じ物を使いながら、それを別の構造に置く。主役の人物は場面のなかにひとりで立つのではない。装飾に、自分の用事に忙しい子どもたちに、彼女が一度も目を向けない遠くの花瓶に囲まれている。
十分に長く見ていると、問いが反転する。女性が何を嗅いでいるかではなく、この紙の上の匂いがどこから始まるのか。彼女の手の花か、右の花瓶か、それとも紙を横切って続く葉の帯全体か。