エッセイ · 嗅覚アート

イリーナ・アダム(Irina Adam)「Pitch Pine Pollen: A Transforming Forest」。

Irina Adam. Pitch Pine Pollen: A Transforming Forest.

色を変えていく森を、ひとつの香りの小瓶に。

イリーナ・アダム「Pitch Pine Pollen」。ロングアイランド・パイン・バレンズのリギダマツの写真

© Irina Adam · Olfactory Art Keller



なじみの小道

イリーナ・アダムは、ブルックリンを拠点とする調香師でありマルチメディア・アーティストである。その作品は自然を中心に据えることが多く、来場者をいくつもの感覚から同時に招き入れることが多い。

「Pitch Pine Pollen: A Transforming Forest」は、とても個人的な場所から始まる。彼女のお気に入りのハイキングの小道だ。それはニューヨーク州ロングアイランドの東端にある砂地の松林、ロングアイランド・パイン・バレンズのナピーグ地区にある。展覧会ページによれば、ナピーグという名はモントーケット語で、海があふれ込んだ土地を意味する。

優占する木はリギダマツ(pitch pine)。痩せた土、海風、火に耐える種である。アダムはそこを何度も歩いた。彼女の香りの抽出物は、その散歩の記念として始まった。枝を折ることも、植物を抜くこともなく、森を家に持ち帰る方法として。

花粉、樹脂、針葉

材料はすべて森から来ている。アルコールに浮かべた松の花粉。甲虫から身を守るために木が出す松の樹脂。針葉。緑の花粉の穂先。砂丘沿いに育つ低木、ビーチプラムの花。オークの花。

これら野生の素材から、彼女は最新の香水を組み立て、展覧会にちなんで「Pitch Pine Pollen」と名づけた。

その方法は、作曲よりも採集に近い。どの材料もひとつの季節とひとつの場所に属している。松の花粉は、木がそれを放つときにしか存在しない。ビーチプラムが咲くのは短いあいだだけ。だから小瓶はそれ自身の日付を運ぶ。それは彼女が歩いた数か月のあいだのあの森の匂いであって、松の一般的な匂いではない。

そのリストの中の小さな細部に、注意を向ける価値がある。樹脂は、攻撃するものに対する木の応答だ。甲虫が幹に穴をあけると、木は樹脂を押し出して傷をふさぐ。だから小瓶の匂いの一部は、森自身の抵抗から来ている。それを嗅ぐ人は甲虫を見ることはないが、木がそれを押し返すのに使ったものを嗅ぐ。

緑から赤へ、そして灰色へ

2022年以来、ここのリギダマツはサザンパインビートルに荒らされている。この甲虫はかつてもっと南に棲んでいたが、気温の上昇とともに北へ移ってきた。展覧会ページは、作家が目撃したものを色の連なりとして記している。緑の針葉が赤くなり、そして灰色になる。

アダムはその変化を撮影した。ハーネミューレ紙に刷った18×24インチのアーカイバル・インクジェット・プリントは、森のかたちと、移り変わる生態系の静かな美しさを記録している。写真と香りは、2024年5月9日から25日まで、ニューヨークの Olfactory Art Keller でともに展示され、5月17日にはアーティスト・トークが開かれた。

二つのメディアは違うものを記録する。写真は色とかたちを見せる。どの木がまだ緑で、どれが赤くなり、どれがもう灰色なのか。香りは、カメラには留められないものを記録する。樹脂、花粉、幹のあいだの空気。並べると、それらは変わりつつあるひとつの場所についてのファイルになる。

売上の一部は、この地域の保護に取り組む Long Island Pine Barrens Society に寄付された。その細部が、展覧会を記録で終わらせない。素材を与えてくれた森のほうへ、それを向け直す。

森をめぐる作品のなかには、火でつくられるものもある。ケイティ・パターソンの「To Burn, Forest, Fire」のように。「Pitch Pine Pollen」は、まだ立っている木の花粉と樹脂からつくられている。