エッセイ · 嗅覚アート

ケイティ・パターソン(Katie Paterson)。「To Burn, Forest, Fire」。

Katie Paterson. To Burn, Forest, Fire.

3億年に、15分。

ケイティ・パターソン「To Burn, Forest, Fire」。儀式のなかで焚かれる香と、立ちのぼる煙

© Katie Paterson · Katie Paterson(作家公式サイト)



最初の森、最後の森

ニューヨーク州のハドソン・バレーで、科学者たちはとても古い森の痕跡を見つけた。近くの町の名からカイロの森と呼ばれる。その根はいまも岩に刻まれている。そこにはかつて、地球で最初期の樹木の一つで、いまは絶滅したクラドキシロン類(Cladoxylopsida)が生えていた。森の年代は3億年以上前にさかのぼる。

時間のもう一方の端に、アマゾンがある。残された最大の熱帯雨林であり、深刻な危機にある。ケイティ・パターソンはそれを最後の森と呼ぶ。必ず失われるからではない。気候危機の時代の縁に立っているからだ。

「To Burn, Forest, Fire」は、その二つの森の匂いである。スコットランドのアーティスト、パターソンは2021年、人間が引き起こした6度目の大量絶滅を思い起こさせるものとして、この作品をつくった。

森を描きはしなかった。写真にも撮らなかった。香をつくった。

誰も嗅いだことのない匂いを組み直す

カイロの森の時代に生きた人はいない。その匂いの記録もない。それを再現するため、パターソンは科学から始めなければならなかった。協働したのは地質学者ヤン・ザラシェヴィッチ(Jan Zalasiewicz)、ヘルシンキ大学のJ・サカリ・サロネン(J. Sakari Salonen)、古植物学者クリス・ベリー(Chris Berry)、そして付随するエッセイも書いた生物学者デヴィッド・ジョージ・ハスケル(David George Haskell)。

彼らはともに、どの森が最初で、どの森が最後か、そこに何があったかを定めた。木、土、水、空気。その知見は、長い歴史をもつ日本の香の老舗、松栄堂(Shoyeido)とともに香りへと移された。

最初の森の香りは、その大気を組み直そうとする。何億年も前の土、水、空気。最後の森の香りは、作家のサイトで、植物が密に植わった温室に近いものと説明されている。植物、湿り気、土、朽ちてゆく木。

一本は約15分で燃える。とても大きな数を抱えるには、とても短い時間だ。香のそばにいる人は、地質年代を何も知らなくていい。ただ呼吸し、教科書にできないことを鼻にさせればいい。

街じゅうで焚く

この作品は2021年の IHME ヘルシンキ・コミッションだった。その年の9月、香は IHME のパートナーとともに、ヘルシンキ各地の屋内外10か所以上で焚かれた。儀式の一つは、ヘルシンキ大聖堂の地下聖堂で行われた。

香というかたちは偶然ではない。香は多くの文化で、儀礼と追悼に属する。人は死者のために香を焚く。ここで追悼されるのは、すでに失われた森と、失われるかもしれない森だ。アリアンナ・ペトリッチが記録した淡路の香づくりのように、日本の香の伝統は風、水、木と結びついている。パターソンはその言葉を借りている。

香はまた、自らを燃やし尽くす。作品が残すのは灰と、しばらく部屋に漂う匂いだけ。喪失を語るまっすぐな方法である。来場者は、物が目の前で燃え尽きるのを見る。

パターソンはしばしば、人の一生を超える時間の幅を扱う。死んだ星の光、百年後にしか読まれない本。「To Burn, Forest, Fire」はその尺度を、考えうるもっとも小さな物にまで縮める。一本の香、一筋の煙、ひと呼吸。部屋にいる人は森を吸いこむ。そして、それは消える。