エッセイ · 近代美術
ジャクソン・ポロック「Summertime: Number 9A」
Jackson Pollock. Summertime: Number 9A.
絵は、ひとつの動きが通り過ぎた場所。
Tate · Tate
5.5メートル、ひとつのリズム
「Summertime: Number 9A」は1948年に描かれた。見る人がまず気づくのは大きさ。高さは1メートルに満たないのに、長さはおよそ5.5メートル。目は一度にとらえきれない。壁や海岸線に沿うように、そばを歩かなければならない。
下地のないカンヴァスの上で、黒い線がループし、途切れ、またループする。そのあいだに、小さく明るい色の斑が落ちている。中心はない。どこかが別の部分より大事ということもない。横に書かれた音楽のように読める。一節ごとに拍は新しく、歌は同じ。
素材も絵画のものだけではない。Tate は油絵具、エナメル、そしてふつうの市販の家庭用塗料を挙げる。どれも流れ方、乾き方、光り方が違う。近くで見ると、表面は平らなところもあれば、盛り上がったところも、つやのあるところもある。
床の上のカンヴァス
1945年、ポロックはニューヨークを離れてロングアイランドへ移った。画家の妻リー・クラズナー(Lee Krasner)とともに、イーストハンプトンのスプリングスに暮らした。その家とアトリエはいまアメリカ国定歴史建造物となり、公開されている。
アトリエは暖房も照明もない納屋を改装したものだった。彼は日の光で仕事をし、カンヴァスをイーゼルに立てず、床に平らに広げた。
小さな変化に聞こえるが、すべてを変えた。カンヴァスが地面にあれば、まわりを歩き、縁に立ち、どの側からも身を乗り出せる。絵具はもう手首から筆で塗られるのではなく、腕と身体全体で垂らされ、注がれ、はじかれた。絵は色だけでなく、ひとつの身体の軌跡を記録する。
Tate によれば、ポロックは無意識から直接仕事をしたいと考えていた。彼はかつて、現代の芸術家は内なる世界を表すと語った。エネルギー、動き、見えない力。「Summertime」はそれをはっきり示す。そのリズムは、夏の日にカンヴァスのまわりを動く一人の男のリズムである。
網の下に
ひと目では、「Summertime」はまったくの抽象に見える。けれど何人かの論者は、絵具の網の下に人物のフリーズがあると指摘してきた。立ち並ぶ姿の古代の帯のように。重たい黒い跡のいくつかは、その名残かもしれない。
確かなことは誰にもわからない。だがその考えは層をひとつ加える。ポロックはまず人物から始め、自分の動きでそれをすり減らしていったのかもしれない。残ったのは姿ではなく、そのリズム。
それは長さの説明にもなるかもしれない。行列には幅がいる。カンヴァスに沿って歩くとき、見る人は消えたかたちの道筋をたどり直している。
そばを歩くための絵
Tate は1988年に「Summertime: Number 9A」を購入した。ふだんは長い壁に掛けられ、見る人はほとんどいつも同じことをする。一方の端からもう一方へ、ゆっくり歩く。
ポロックの作品はよくアクション・ペインティングと呼ばれる。画家を指す名前だ。けれど「Summertime」の前では、見る人も動かなければならない。歩き、止まり、下がり、近づく。この絵はひとつの視点を拒む。
だからタイトルが合うのかもしれない。夏は一瞬ではなく、ひと続きの時間。長く、リズムがあり、そして去る。同じ世代のロスコの静かな色面と並べると、「Summertime」には休む場所がほとんどない。あるのは道だけで、見る人はそれをたどるよう誘われる。