エッセイ · 現代アート
Jorge Otero-Pailos. The Ethics of Dust.
塵は汚れではない。積もった時間である。
提供:Artangel · Artangel
最も古い壁
ウェストミンスター・ホールは、英国国会議事堂に現存する最古の部分である。征服王ウィリアムの息子ウィリアム・ルーファスが建設を命じ、1099年に完成した。リチャード二世の時代に加えられた木造のハンマービーム屋根は、同種のものとして北ヨーロッパ最大である。
この建物は多くを生き延びてきた。1834年の火災。第二次世界大戦の空襲。1952年のロンドンスモッグ。どれもが壁に何かを残した。
2016年、アーティストのホルヘ・オテロ=パイロス(Jorge Otero-Pailos)は Artangel とともに、ホールの東壁で直接作業する許可を得た。彼は壁に描かなかった。何も掛けなかった。すでにそこにあったものを取った。
吹きつけて、剥がす
方法は説明すれば簡単だ。半透明の液体ラテックスを石に吹きつける。乾くにつれ、それは皮膜になる。そしてその皮膜を剥がす。
剥がれるとき、ラテックスは石にこびりついていたものを連れていく。数世紀にわたって積もった塵、煤、汚染。壁はきれいになった。ラテックスはその汚れをすべて保った。石のひとつひとつ、目地のひとつひとつの形そのままに。
完成した型は50メートルを超えた。屋根から吊るされ、それが剥がされた当の壁と平行に下がっていた。背後から照らされ、高窓からの昼の光を受けて、琥珀色に輝いた。
訪れた人は二つのもののあいだに立った。きれいになった壁と、壁を汚していたものを抱えるシート。ひとつの表面の二つの顔。片側に石、もう片側に、その上に積もった時間。
美術を作る修復家
オテロ=パイロスは1971年、マドリードに生まれた。アーティストであり建築修復家でもあり、コロンビア大学の准教授として歴史保存プログラムのディレクターを務める。これが初めてではなかった。2009年のヴェネツィア・ビエンナーレでは、ドゥカーレ宮殿の壁から同様の型を取っている。
タイトルはジョン・ラスキン(John Ruskin)の著書「The Ethics of the Dust」から借りている。十九世紀イギリスの批評家ラスキンは、古い建物を手荒く洗浄することに反対した。彼にとって古い建物の表面はその歴史を担っており、洗いすぎればそれを消してしまう。
オテロ=パイロスはその考えをさらに一歩進める。修復家として壁を洗う。だが取り除いたものを捨てない。それを保ち、見せ、作品と呼ぶ。
アーカイブとしての塵
Artangel によれば、ラテックスのなかの塵には、第二次世界大戦や1952年のスモッグを含む大きな出来事の痕跡が残っている。粒子のひとつひとつを読める者はいない。だが訪れた人は、それがそこにあることを知っている。
これは塵の見方を変える。家では、塵は拭くものだ。ここでは、言葉のないアーカイブである。何世紀にもわたる都市の空気を記録している。人々が燃やしたもの、吐いた息、空へ放ったもの。
作品は2016年6月29日から9月1日まで公開された。その後、型は下ろされた。壁はいまも立っている。前よりきれいになり、その日から新しい塵を集めはじめた。
ロニ・ホーン(Roni Horn)の「Library of Water」にある氷河の水の柱のように、このシートは標本だ。ふだん誰にも気づかれずに消えていくありふれたものを、とどめている。